すっかり日が沈んだ頃、ふたりは山を抜け入った道と反対側に出た。夕方だったが学区外ではあったため帽子を深く被り闇に紛れて歩いた。
都会と都会に挟まれた山を囲む高原は広く、高低差もあるため道具がなくても一日中遊びまわれる場所だ。
ただ昨日はどこかの学校の指定ジャージを着た生徒が遠足に来ているのか多く見受けられ、鉢合わせないように少し回り道をしたせいで高原を出るのに丸一日かかってしまった。
そして八江町に行くには、もう一度都会を抜けなければならない。
たまたま横切った電柱に5日後にある隣市の夏祭りのチラシの張り紙が貼られていた。
高原を出たばかりのこの地区は郊外のため家もまばらで道路が広く、店も24時間営業のコンビニエンスストアをたまに横目に通るばかりだった。
「っつ…」
ここまで24キロ、ほぼ休みなく歩いていた。今立ち止まってしまえばしばらくは確実に動けない。
もともと、体力に自信があるほうじゃなかった。運動は苦手だったし、勉強することが最優先だったから。母親のいいなりだったから。
「_る」
貴女の足枷になりたくない。立ち止まったら置いて行かれる。
「……はる…」
見放されたくない。独りぼっちは嫌。嫌、いや…
「春」
はっと顔を上げる。いつの間にかふたりは立ち止まっていた。春の足は一歩も動かなくなっていた。
「ぼくがいつ春を置いて行くって言ったの?」
春の思っていたことが口から出ていたようで、璃来は呆れたようにやさしく笑った。
「春は独りじゃない、ぼくがいる」
今瞬きしたら、こぼれる。でも、いいんだ。泣いても。
「っあ、なに、やだ、撮るなあ、!」
「春の弱った顔ゲット〜」
春は璃来に背負われ道を進む。山沿いを歩いているため建物が少なく虫の鳴き声がそこら中から聞こえてくる。道路になぞって造られた幅1メートルの人工河川の水はほぼ干上がり底のコンクリートが見えるほど浅い川だ。
道の途中で小さな祠を見つけた。
合掌したお地蔵様の石像が鎮座しており、ふたりはしゃがんで手を合わせた。
幸せになれますように。
もう、そんな願い事はしなくなっていた。幸せなんてそんな大それたものは望まない。
ふたりの望みはただこれだけだった。
「誰にも邪魔されずに」
「何にも怯えることなく」
ぼーん…。どこからか鈍い鐘の音が鳴る。道路を挟んだ河川の反対側にある公民館らしき建物の玄関の上に設置された時計が0時を知らせる。
ちゃんと、死ねますように。
都会と都会に挟まれた山を囲む高原は広く、高低差もあるため道具がなくても一日中遊びまわれる場所だ。
ただ昨日はどこかの学校の指定ジャージを着た生徒が遠足に来ているのか多く見受けられ、鉢合わせないように少し回り道をしたせいで高原を出るのに丸一日かかってしまった。
そして八江町に行くには、もう一度都会を抜けなければならない。
たまたま横切った電柱に5日後にある隣市の夏祭りのチラシの張り紙が貼られていた。
高原を出たばかりのこの地区は郊外のため家もまばらで道路が広く、店も24時間営業のコンビニエンスストアをたまに横目に通るばかりだった。
「っつ…」
ここまで24キロ、ほぼ休みなく歩いていた。今立ち止まってしまえばしばらくは確実に動けない。
もともと、体力に自信があるほうじゃなかった。運動は苦手だったし、勉強することが最優先だったから。母親のいいなりだったから。
「_る」
貴女の足枷になりたくない。立ち止まったら置いて行かれる。
「……はる…」
見放されたくない。独りぼっちは嫌。嫌、いや…
「春」
はっと顔を上げる。いつの間にかふたりは立ち止まっていた。春の足は一歩も動かなくなっていた。
「ぼくがいつ春を置いて行くって言ったの?」
春の思っていたことが口から出ていたようで、璃来は呆れたようにやさしく笑った。
「春は独りじゃない、ぼくがいる」
今瞬きしたら、こぼれる。でも、いいんだ。泣いても。
「っあ、なに、やだ、撮るなあ、!」
「春の弱った顔ゲット〜」
春は璃来に背負われ道を進む。山沿いを歩いているため建物が少なく虫の鳴き声がそこら中から聞こえてくる。道路になぞって造られた幅1メートルの人工河川の水はほぼ干上がり底のコンクリートが見えるほど浅い川だ。
道の途中で小さな祠を見つけた。
合掌したお地蔵様の石像が鎮座しており、ふたりはしゃがんで手を合わせた。
幸せになれますように。
もう、そんな願い事はしなくなっていた。幸せなんてそんな大それたものは望まない。
ふたりの望みはただこれだけだった。
「誰にも邪魔されずに」
「何にも怯えることなく」
ぼーん…。どこからか鈍い鐘の音が鳴る。道路を挟んだ河川の反対側にある公民館らしき建物の玄関の上に設置された時計が0時を知らせる。
ちゃんと、死ねますように。
