「そう。東京の方に出張に行った時、お世話になった会社の社長さん。ママが仕事でも家の事でも大変だった時期にとても良くしてもらったのよ。」

「そう、なんだ。」

杏莉はなんと返していいか分からなかった。

「急な話でごめんね。でも、ママは本気で再婚しようと考えてるし、お相手の人にも会って欲しいと思ってる。」

「杏莉は……ママが幸せになれるのなら賛成するよ。」

「本当に、?」

母は涙ぐんでそう言った。

「今まで心配とか迷惑ばっかりかけてごめんね。自分のことで精一杯でママのことなにも気づけなかった。」

母は杏莉のことを優しく抱きしめた。

「そんなことないよ。ママと杏莉はこれから一緒に幸せになるんだよ。」

「うん、なる。」

杏莉の目にも涙が溜まっていた。
冷めてしまったコーヒーとケーキを2人で食べ始めた。

「相手の人なんだけどね、水瀬 大地《みなせ だいち》さんという方で、奥さんは何年も前に病気で亡くなられたそうなの。」

(私の苗字は“水瀬”になるのか……)

「水瀬さんには杏莉の10個上の息子さんが1人いて、その息子さんは…………」