蒼真と健太の二人は歌謡バラエティ番組収録のため、TV曲の控え室にいた。
主題歌担当の音楽グループ「slash」と一緒に登場して、華を添えるためだ。二人とも歌うわけではないので気楽だ。
slashは実力派シンガーを組み合わせ、特撮のために作られたスペシャルユニットである。主役といえど、緊張する二人だった。
「いいな。俺もガントレットストライカーになってみたいよ」
「この仕事がきて嬉しかったもんナ」
ボーカルの刀塚と有名バンド出身でギター兼ボーカルのejjiが二人に声をかける。
「俺達もお二人が主題歌と聞いて信じられませんでした!」
「ダウンロード数も凄いですよね!」
意外なことにこの二人も特撮好きであり、決して企業案件だけというわけではなかった。
熱心に曲作りをしたことも知られている。映画のゲスト出演もあるということだ。
「ガントレットストライカー紫雷が良かったんだよ。子供が俺達の名前を覚えてくれたら、嬉しいぜ」
「そうそう。商売っ気ではなくてサ。あの人、あの歌の人だ! って子供は大人になっても覚えていてくれる。コレ、音楽やってるヤツにはマジ財産なんだヨ」
「わかります。子供の頃、聞いた曲、普通にカラオケで歌いますし」
「それよそれ。やっぱサ。嬉しいわけよ。自分の曲が思い出に残るってのはネ」
無口で有名なejjiが饒舌になっている。バンドマンはサブカル好きが多い。ejjiもそうなのだろう。
「slashだけの武道館コンサートまで決まるとはなぁ」
「信じられなかったよネ。曲足りないから作っちゃうヨ」
特撮主題歌としてはあり得ない人気を誇る二人だった。
「お二人の前で歌うことになるのか……」
恐縮する蒼真。キャラソンを担当しているとはいえ、本格派の二人を前に歌うのは恐れ多いのだ。
「ソウ君いけるっテ。自信をもって」
「はい!」
「健太君はもう少し練習が必要かな」
刀塚が健太をイジる。
「俺だけに厳しー!」
「ははは。冗談だよ。楽しくいこう。まずは収録だ」
楽屋は他のスタッフが羨むほど、和気藹々としていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おつかれさまでしたー」
「盛り上げてくれたね。ありがとう」
slashの曲が終わり、座っていた二人が雑談に入る。
ここからは壁の花、いわゆるがやだ。たまに合いの手を入れるぐらいでいい。
数グループ歌い終えたところで、MCが次の歌手へのトークに入った。大谷さくらが笑顔を浮かべながらトークに応じている。
興味がない四人はそのまま雑談をしていた。
それを目敏く目にした大谷さくら。
(あの四人、私なんか眼中にないってわけね!)
相変わらず腹立たしい。とくに天海蒼真への苛立ちが募っていく。
そこにMCがさくらに話を振ってきた。
「最近ハマっているものとかはあるんですか?」
「ありますよ! ニチアサのガントレットストライカー紫雷です!」
「おお。今日ゲストにきている!」
「兄の影響で~。私、結構特撮好きなんですよね」
反応が遅れた蒼真と健太。
露骨なアピールに苦笑するslashの二人。
(おいこら。あざとすぎるぞあいつ)
(やり過ごすか)
しかしMCはこんなネタを見逃すわけもなく――
「天海ソウさん。よければこちらへ」
「わー! 嬉しい! 本物の秋月環ですね!」
喜色満面のさくら。
(空気読めよMC)
(それな)
仕方なく蒼真が一人で向かう。健太は呼ばれていないからだ。
当たり障りのないトークでやり過ごし、席に戻る蒼真。
「ああいう手合いは昔からいるんだよネ。気を付けてネ、ソウ君」
ejjiが小声で蒼真に囁く。
何に? と聞き返す余裕はなかった。
さくらは自局を歌唱し終え、席を外す。控え室に置いてあるスマホを手にとり、おもむろに電話を始めた。
番組の収録が終わった。
蒼真はさくらに呼び止められた。
「もう帰るの?」
「そうですよ」
適当に流して通り過ぎようとすると、腕をつかまれた。
「待って。少しぐらいお話してもいいでしょう?」
「明日、収録早いんで」
「私もだよ!」
なかなか腕を放してくれないさくらに、苛立つ蒼真だがそこはポーカーフェイスで通す。
アイドル相手に突き飛ばすわけにもいかない。
「友達になるぐらいいでしょう? それにほら。合コンとかもできるよ」
「興味がありません」
とりつく島がない蒼真に、さくらは懇願する。
「せめてアド交換だけでも」
「大人気アイドル相手に恐れ多くて、話す話題もありません。申し訳ない」
「手に届くアイドルだっているんだよ?」
「不要です。俺は子供たちのヒーローになりたいだけなので」
さくらほどのアイドルなら、蒼真がいかに子供っぽいことを言っているかよく理解するはずだ。
しかしさくらには口実に過ぎないと思われたようだ。
「子供好きってモテるでしょー?」
ますますさくらに引く蒼真。何を言っても自分に都合がよい風に解釈してしまうのだろう。
仮面のような無表情を顔にはりつけ、横を通り過ぎる。
「いっちゃった。ま、いっか」
いたずらっぽく笑うさくら。
仕掛けは施したのだから。通路の奥から目をかけているADが、スマホを片手に怯えた表情で姿を現した。
主題歌担当の音楽グループ「slash」と一緒に登場して、華を添えるためだ。二人とも歌うわけではないので気楽だ。
slashは実力派シンガーを組み合わせ、特撮のために作られたスペシャルユニットである。主役といえど、緊張する二人だった。
「いいな。俺もガントレットストライカーになってみたいよ」
「この仕事がきて嬉しかったもんナ」
ボーカルの刀塚と有名バンド出身でギター兼ボーカルのejjiが二人に声をかける。
「俺達もお二人が主題歌と聞いて信じられませんでした!」
「ダウンロード数も凄いですよね!」
意外なことにこの二人も特撮好きであり、決して企業案件だけというわけではなかった。
熱心に曲作りをしたことも知られている。映画のゲスト出演もあるということだ。
「ガントレットストライカー紫雷が良かったんだよ。子供が俺達の名前を覚えてくれたら、嬉しいぜ」
「そうそう。商売っ気ではなくてサ。あの人、あの歌の人だ! って子供は大人になっても覚えていてくれる。コレ、音楽やってるヤツにはマジ財産なんだヨ」
「わかります。子供の頃、聞いた曲、普通にカラオケで歌いますし」
「それよそれ。やっぱサ。嬉しいわけよ。自分の曲が思い出に残るってのはネ」
無口で有名なejjiが饒舌になっている。バンドマンはサブカル好きが多い。ejjiもそうなのだろう。
「slashだけの武道館コンサートまで決まるとはなぁ」
「信じられなかったよネ。曲足りないから作っちゃうヨ」
特撮主題歌としてはあり得ない人気を誇る二人だった。
「お二人の前で歌うことになるのか……」
恐縮する蒼真。キャラソンを担当しているとはいえ、本格派の二人を前に歌うのは恐れ多いのだ。
「ソウ君いけるっテ。自信をもって」
「はい!」
「健太君はもう少し練習が必要かな」
刀塚が健太をイジる。
「俺だけに厳しー!」
「ははは。冗談だよ。楽しくいこう。まずは収録だ」
楽屋は他のスタッフが羨むほど、和気藹々としていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おつかれさまでしたー」
「盛り上げてくれたね。ありがとう」
slashの曲が終わり、座っていた二人が雑談に入る。
ここからは壁の花、いわゆるがやだ。たまに合いの手を入れるぐらいでいい。
数グループ歌い終えたところで、MCが次の歌手へのトークに入った。大谷さくらが笑顔を浮かべながらトークに応じている。
興味がない四人はそのまま雑談をしていた。
それを目敏く目にした大谷さくら。
(あの四人、私なんか眼中にないってわけね!)
相変わらず腹立たしい。とくに天海蒼真への苛立ちが募っていく。
そこにMCがさくらに話を振ってきた。
「最近ハマっているものとかはあるんですか?」
「ありますよ! ニチアサのガントレットストライカー紫雷です!」
「おお。今日ゲストにきている!」
「兄の影響で~。私、結構特撮好きなんですよね」
反応が遅れた蒼真と健太。
露骨なアピールに苦笑するslashの二人。
(おいこら。あざとすぎるぞあいつ)
(やり過ごすか)
しかしMCはこんなネタを見逃すわけもなく――
「天海ソウさん。よければこちらへ」
「わー! 嬉しい! 本物の秋月環ですね!」
喜色満面のさくら。
(空気読めよMC)
(それな)
仕方なく蒼真が一人で向かう。健太は呼ばれていないからだ。
当たり障りのないトークでやり過ごし、席に戻る蒼真。
「ああいう手合いは昔からいるんだよネ。気を付けてネ、ソウ君」
ejjiが小声で蒼真に囁く。
何に? と聞き返す余裕はなかった。
さくらは自局を歌唱し終え、席を外す。控え室に置いてあるスマホを手にとり、おもむろに電話を始めた。
番組の収録が終わった。
蒼真はさくらに呼び止められた。
「もう帰るの?」
「そうですよ」
適当に流して通り過ぎようとすると、腕をつかまれた。
「待って。少しぐらいお話してもいいでしょう?」
「明日、収録早いんで」
「私もだよ!」
なかなか腕を放してくれないさくらに、苛立つ蒼真だがそこはポーカーフェイスで通す。
アイドル相手に突き飛ばすわけにもいかない。
「友達になるぐらいいでしょう? それにほら。合コンとかもできるよ」
「興味がありません」
とりつく島がない蒼真に、さくらは懇願する。
「せめてアド交換だけでも」
「大人気アイドル相手に恐れ多くて、話す話題もありません。申し訳ない」
「手に届くアイドルだっているんだよ?」
「不要です。俺は子供たちのヒーローになりたいだけなので」
さくらほどのアイドルなら、蒼真がいかに子供っぽいことを言っているかよく理解するはずだ。
しかしさくらには口実に過ぎないと思われたようだ。
「子供好きってモテるでしょー?」
ますますさくらに引く蒼真。何を言っても自分に都合がよい風に解釈してしまうのだろう。
仮面のような無表情を顔にはりつけ、横を通り過ぎる。
「いっちゃった。ま、いっか」
いたずらっぽく笑うさくら。
仕掛けは施したのだから。通路の奥から目をかけているADが、スマホを片手に怯えた表情で姿を現した。