「彼女ではありません」
内心焦りながら、無表情を貫き通す更紗。
「そうだ。彼女ではないんだ。とにかくここは目立つ。移動するぞ」
蒼真も若干悔しさを滲ませながらも更紗の言葉を肯定して、人が少ない路地裏に移動する。
さくらも移動に関しては異論はないようだ。
「ここならいいか。ならどういう関係なんですか」
「彼の……ソウさんの母親とは同級生なんです。それだけの関係です」
その言葉を聞いた瞬間、大谷さくらはTVで見せたことがない怒りの表情を浮かべた。
「ハァ?! 嘘をつくならもっとましな嘘をつきなさいよ! そんな言い訳が通じるわけがないでしょ!」
馬鹿にされたと思ったのだ。彼女の目から見ても、今の更紗は時代錯誤のゴスロリとはいえ、いやオーソドックスなゴスロリがゆえに普通に美人で通る外見だ。
さくらは心のなかで憤慨する。
(どこの世界に母親の友達を名前呼びする男がいるっつーの!)
絶対にあり得ない関係だ。もし本当なら年齢は十五歳以上ではないのか。十代人気特撮俳優のお相手にはなり得ない相手だろう。
更紗は無表情だ。喜んで良いのか哀しんでいいのか、わからない。
しかしプライドよりも蒼真を護ることを選んだ。
「アラフォー間近の34歳です。本当です」
蒼真は苦虫をかみ潰したかのような、渋い顔をしている。更紗に年齢を意識させたくはなかったのだ。
睨むように更紗を品定めする大谷さくら。どうみても二十代だ。小柄なので十代といっても通用するかもしれない。それが三十代だという。それこそ負けた気になる。
「もしそれが本当に本当なら…… 未成年連れ回して恥ずかしくないの? 貴女」
上から睨み付けるように更紗を問いただす大谷さくら。正論で攻めてみることにした。これで対応がわかるというものだろう。たとえ男女逆でも犯罪じみた年齢差だ。
「はい。ごめんなさい。ソウさん。さくらさん」
「やめてくれ更紗」
素直に深々と頭を下げ、謝罪する更紗。
虚を突かれたさくら。
(本当に三十代ってこと? 嘘でしょ)
もし自分が三十代だったらと思う。若手人気特撮俳優を連れ回すなんて無理だろう。
しかも何故かゴスロリを着こなしている。コスプレや洒落で着ているわけではないことはさくらにも理解できる。現役のJKといわれたほうがまだ信じることができた。
一般人に敗北した気分であり、激しくプライドを刺激された。自分はアドレス交換すらできなかったのだ。
「彼女は悪くない。連れ回しているのは俺なんだ」
「その態度、母親の同級生に対する態度じゃないですよねぇ?」
「そもそもあなたは無関係だよな?」
「私達は芸能人ですよ?」
「分野が違いますよ。あなたは人気アイドルで、駆け出しの俺なんか眼中にないはずだろう」
「その人が本命で、私とアドレス交換してくれなかったということなら、私にも関係があるんですよ?」
その時だった。
路地裏に割りこんできた男がいた。短く刈り上げた髪。肌寒いのにTシャツ一枚とジーンズ。浅黒い肌で筋骨隆々の、中年の男性だった。
「だ、だれ?!」
「すまんすまん。待たせたな二人とも」
男は歯を輝かせてにこりと笑う。
さくらが知らない人物であるのも仕方がないことだった。
「ガイさん!」
「あ、五百旗頭((いきおべ)さん!」
更紗と蒼真が声をあげた。
五百旗頭垓。ガントレットストライカーシリーズを支える最重要人物でもある裏方。歴代主役担当のスーツアクターだ。
「だ、誰ですか」
「はは。俺もアクターなんだが、トップアイドルに知らないと言われるのは残念だ。ちと分野が違うからな。二人を呼び出したのは俺なんだ。行こうか。ソウ君。更紗さん」
「す、すみません」
ベテランの俳優なのだろうか。しまったと後悔するさくらだった。
女の名前まで知っているということは、この女性も有名人の可能性があった。
「待たせてすまないな二人とも。というわけでアイドルのお嬢さん。あんたも目立たないようにな」
「え、あ、はい」
五百旗頭垓はアクターと名乗ったのだから俳優なのだろうが、思い出せないのだ。どこかで見た記憶はあるが、まったく記憶と顔が繋がらない。こんな個性的な筋肉男なのに、だ。
さくらが混乱しているうちに、三人は歩き出す。
さくらを巻くように移動する。垓も心斎橋には詳しいようだ。
「更紗さんで間違いないね? 久しぶりだな。変身しすぎて一瞬誰かわからなかったぞ」
「覚えてくださっていたんですね」
思わぬ助っ人にほっと胸をなでおろす更紗。
「二人とも知り合いなのか?」
蒼真はその事実に驚愕を隠せない。
「撮影現場に差し入れを二回ほどもらったことがあるんだよ。スーツアクター相手に差し入れするなんて、よほどの特撮ファンだからな。ありがたいことさ」
「更紗は本当に特撮好きだからな」
更紗の特撮好きが褒められたようで、自分まで嬉しくなる蒼真。
「差し入れも数年前の話ですね。懐かしい。――本当に助かりました。蒼真さんのスキャンダルにまで発展したらどうしようかと」
動機が止まらない。大谷さくらはもとより五百旗頭垓まで来るとは想定外だったが、彼はどうやら蒼真の味方のようだ。
「だいいち彼女でもないアイドルと修羅場なんてまっぴらだ!」
「それもそうだな。ソウには女難の相があるな。ガントレットストライカーの主役はそんなもんだ。こんなのはまだトラブルの内にもならないさ」
豪快に笑う垓。
「更紗さんのことはソウ君から聞いているよ。まさか君だったとは思わなかったけどね」
にやりと笑う垓であった。
内心焦りながら、無表情を貫き通す更紗。
「そうだ。彼女ではないんだ。とにかくここは目立つ。移動するぞ」
蒼真も若干悔しさを滲ませながらも更紗の言葉を肯定して、人が少ない路地裏に移動する。
さくらも移動に関しては異論はないようだ。
「ここならいいか。ならどういう関係なんですか」
「彼の……ソウさんの母親とは同級生なんです。それだけの関係です」
その言葉を聞いた瞬間、大谷さくらはTVで見せたことがない怒りの表情を浮かべた。
「ハァ?! 嘘をつくならもっとましな嘘をつきなさいよ! そんな言い訳が通じるわけがないでしょ!」
馬鹿にされたと思ったのだ。彼女の目から見ても、今の更紗は時代錯誤のゴスロリとはいえ、いやオーソドックスなゴスロリがゆえに普通に美人で通る外見だ。
さくらは心のなかで憤慨する。
(どこの世界に母親の友達を名前呼びする男がいるっつーの!)
絶対にあり得ない関係だ。もし本当なら年齢は十五歳以上ではないのか。十代人気特撮俳優のお相手にはなり得ない相手だろう。
更紗は無表情だ。喜んで良いのか哀しんでいいのか、わからない。
しかしプライドよりも蒼真を護ることを選んだ。
「アラフォー間近の34歳です。本当です」
蒼真は苦虫をかみ潰したかのような、渋い顔をしている。更紗に年齢を意識させたくはなかったのだ。
睨むように更紗を品定めする大谷さくら。どうみても二十代だ。小柄なので十代といっても通用するかもしれない。それが三十代だという。それこそ負けた気になる。
「もしそれが本当に本当なら…… 未成年連れ回して恥ずかしくないの? 貴女」
上から睨み付けるように更紗を問いただす大谷さくら。正論で攻めてみることにした。これで対応がわかるというものだろう。たとえ男女逆でも犯罪じみた年齢差だ。
「はい。ごめんなさい。ソウさん。さくらさん」
「やめてくれ更紗」
素直に深々と頭を下げ、謝罪する更紗。
虚を突かれたさくら。
(本当に三十代ってこと? 嘘でしょ)
もし自分が三十代だったらと思う。若手人気特撮俳優を連れ回すなんて無理だろう。
しかも何故かゴスロリを着こなしている。コスプレや洒落で着ているわけではないことはさくらにも理解できる。現役のJKといわれたほうがまだ信じることができた。
一般人に敗北した気分であり、激しくプライドを刺激された。自分はアドレス交換すらできなかったのだ。
「彼女は悪くない。連れ回しているのは俺なんだ」
「その態度、母親の同級生に対する態度じゃないですよねぇ?」
「そもそもあなたは無関係だよな?」
「私達は芸能人ですよ?」
「分野が違いますよ。あなたは人気アイドルで、駆け出しの俺なんか眼中にないはずだろう」
「その人が本命で、私とアドレス交換してくれなかったということなら、私にも関係があるんですよ?」
その時だった。
路地裏に割りこんできた男がいた。短く刈り上げた髪。肌寒いのにTシャツ一枚とジーンズ。浅黒い肌で筋骨隆々の、中年の男性だった。
「だ、だれ?!」
「すまんすまん。待たせたな二人とも」
男は歯を輝かせてにこりと笑う。
さくらが知らない人物であるのも仕方がないことだった。
「ガイさん!」
「あ、五百旗頭((いきおべ)さん!」
更紗と蒼真が声をあげた。
五百旗頭垓。ガントレットストライカーシリーズを支える最重要人物でもある裏方。歴代主役担当のスーツアクターだ。
「だ、誰ですか」
「はは。俺もアクターなんだが、トップアイドルに知らないと言われるのは残念だ。ちと分野が違うからな。二人を呼び出したのは俺なんだ。行こうか。ソウ君。更紗さん」
「す、すみません」
ベテランの俳優なのだろうか。しまったと後悔するさくらだった。
女の名前まで知っているということは、この女性も有名人の可能性があった。
「待たせてすまないな二人とも。というわけでアイドルのお嬢さん。あんたも目立たないようにな」
「え、あ、はい」
五百旗頭垓はアクターと名乗ったのだから俳優なのだろうが、思い出せないのだ。どこかで見た記憶はあるが、まったく記憶と顔が繋がらない。こんな個性的な筋肉男なのに、だ。
さくらが混乱しているうちに、三人は歩き出す。
さくらを巻くように移動する。垓も心斎橋には詳しいようだ。
「更紗さんで間違いないね? 久しぶりだな。変身しすぎて一瞬誰かわからなかったぞ」
「覚えてくださっていたんですね」
思わぬ助っ人にほっと胸をなでおろす更紗。
「二人とも知り合いなのか?」
蒼真はその事実に驚愕を隠せない。
「撮影現場に差し入れを二回ほどもらったことがあるんだよ。スーツアクター相手に差し入れするなんて、よほどの特撮ファンだからな。ありがたいことさ」
「更紗は本当に特撮好きだからな」
更紗の特撮好きが褒められたようで、自分まで嬉しくなる蒼真。
「差し入れも数年前の話ですね。懐かしい。――本当に助かりました。蒼真さんのスキャンダルにまで発展したらどうしようかと」
動機が止まらない。大谷さくらはもとより五百旗頭垓まで来るとは想定外だったが、彼はどうやら蒼真の味方のようだ。
「だいいち彼女でもないアイドルと修羅場なんてまっぴらだ!」
「それもそうだな。ソウには女難の相があるな。ガントレットストライカーの主役はそんなもんだ。こんなのはまだトラブルの内にもならないさ」
豪快に笑う垓。
「更紗さんのことはソウ君から聞いているよ。まさか君だったとは思わなかったけどね」
にやりと笑う垓であった。