「呼ばれなくても飛び出てナーナ、ナナ」
校舎の隅っこにある生徒指導室の窓の下。澤田君が停学になって数日後のお昼時、補習を終えた私は謎の掛け声と共にピーコを空に放った。
バサバサと音を立てて二階の生徒指導室まで飛んでいく賢いピーコ。その愛らしい足にはメモが括り付けてある。
【私、ピーコ。美人で可愛い鳩の女の子】
ある意味、名札のような手紙だ。
これなら先生に見られても怪しまれないし、澤田君には意図が通じるだろう……と、期待しながら物陰に隠れる。
ピーコは臆病だから一人で外には出ない。窓が開いていようが私と一緒じゃないと出て行かない。
そんなピーコがメモを括り付けて自分のところに飛んできた、ということは私が近くに居る……とピーコをよく知る澤田君なら直ぐに気が付くだろう。
メモを見た澤田君は真っ先に窓の外を見るはず。それも先生が近くに居れば見ないし、居なければ見る。そして私の姿を見つけるのだ。こうすれば電話を鳴らすよりも安全かつ確実に会える。
「……伝書バトって。戦国時代の武将か、お前は」
企み通り窓から顔を出した澤田君は私の姿を見つけると呆れたように笑った。
姿を見れて嬉しい。思っていたより元気そうだ。顔色も悪くない。ただ黒染めさせられて金髪だった髪がこげ茶っぽい色になってる。