「んー、その日は直ぐに帰っちゃったから何も見てないや」


 次の日の補習後。教室から出た私は証拠集めをするべく補習に来ていた別の生徒に聞き込みを開始した。


 しかし、苦戦中。目撃者が全くと言っていい程いない。皆、首を横に振るばかりだ。


 そりゃそうか。皆、補習が終わると同時に直ぐ帰っていたし。部活に来ていた生徒だって他の教室からは少し外れた場所にある準備室の前なんて通らないだろう。だからこそ私も閉じ込められて焦っていたんだし。


 「原谷〜。その腕、どうしたん」

 「あぁ、澤田にボコられてさ」

 「マジ?」

 「マジマジ。機嫌が悪かったみたいで」


 腕に包帯を巻いたツンキーが声を掛けてきた他の生徒に弱々しい微笑を向ける。

 いつもは真っすぐなツンツン頭も今日は普通だ。特徴のない平凡な姿になっている。


 「あいつやばいじゃん……」


 ツンキーに声を掛けた生徒は驚き顔。それをいいことにツンキーは犯人のくせして被害者を演じている。


 きっと一発も殴り返せずにボコボコにやられたのが悔しかったのだろう。「受け身を取ったけどダメだった」とか「やり返したら負けだと思って」とか、言い訳みたいにツラツラと喧嘩に負けた理由を並べている。


 自分は意思を持ってやられたのだ。と、そこすらも嘘を吐いて。虚しい男だ。ツンキーよ。