「xとかyとか数字の世界に英語を持ってくるのは卑怯だと思いません?」
夏休みが始まった7月下旬。一緒に補習を受けていた澤田君にコソコソと愚痴る。そもそもxとかyとかいったい何?彼らの存在自体、謎。意味が分からない。
「ごめん。何が卑怯なのか全然分かんねぇ」
しかし、頭の良い澤田君は私の抱える疑問の方が理解できないらしい。とにかく言われた通りに当てはめていけば解けるからと小難しいことを言ってくる。
苦笑いまで浮かべちゃって、これだから頭の良い人は……と心の中でこっそり溜め息。
しかし、ちゃんと理解出来るまで教えてくれるんだから、やっぱり澤田君は良い人だ。
ちなみに頭の作りが違う澤田君が何故補習なんか受けているのかというと授業に出なさすぎたから。
テストの点が良いし、校長の激甘な配慮のおかげでどうにか留年せずに済んでいるけど、現実的には結構ギリギリ。だからこうやって赤点を取った私と同じ授業を受けている。
個人的にはラッキー。分からないところを教えて貰えるし、クラスメートになったみたいで新鮮。楽しい。
だが、問題が一つ。
「おのれ澤田ァ。絶対に許さん」
私の斜め前に座ったツンキーがせっかくの楽しい気分を邪魔してくる。
文字を書いてはシャーペンの芯をバキバキに折り、澤田君への恨み言をブツブツ。開いたノートには【澤田成敗】とビッシリ書かれてある。