キッチンにいる母に呼ばれ、少し悩んだ私は栄斗にスマホを渡した。

 「本当に少しだよ? ひとつ見たら、寝るんだからね?」

 「うん!」

 栄斗はにこにこと笑い、慣れた手つきで動画アプリを立ち上げる。

 そんな彼を見届けて、私はソファから立ち上がり、母のもとに駆け寄った。

 どうやら母は、棚の一番上に入っている、ストックしていたキッチンペーパーが取れなかったみたいだ。

 私は母よりも十センチほど身長が高いため、手を伸ばして簡単に掴む。

 「ありがとね、ひかり。この頃背中が痛くて……手を伸ばそうとしたら、もっと痛めそうだったから」

 受け取った母は申し訳なさそうな表情で、弱々しく笑う。

 「そうだったのね。寝違えか何か?」

 母は三年前に心筋梗塞を患ってはいるけれど、手術に成功して定期健診と運動もちゃんと行っているから、今では元気いっぱい。

 風邪も滅多に引かないので、少々珍しいなと思う。

 「たぶんそうよ。この前お友達とお買い物に行ったり、銭湯にいったりなんかしたから、体が疲れちゃったのかしら」

 「あまりに痛いなら、整形外科で見てもらうといいかも」

 母に病院を勧めつつ、ベッドのマットが合わないなら次の休みにでも新しく買いに行こうなどと話したりした。

 「そういえば昨日――」

 母とは仲がいいので話始めるとつい、長話になってしまう。

 我に返った私は、壁の掛け時計を急いでみる。すでに二十分ほどが経っていて、栄斗に動画を見せっぱなしにしていた。

 「栄斗、ごめんっ……ママ、ばぁばと話しすぎちゃった!」