正体を明かした私に、瀬七さんはわずかに目を見開く。
「あのとき、いきなり消えてごめんなさい。あんなによくしてくれたのに、ろくにお礼も言わずに、失礼でした」
そこだけは、謝っておこう。
いくら遊ばれたからといって、私がしたことは無礼には変わらないのだ。
でもそれ以上は、瀬七さんに言えることは……ない。
「久しぶりに会えて、ちゃんと謝れてよかったです。これからは同僚として――」
「なんで消えた?」
「え?」
瀬七さんは苦し気に眉を寄せ、さらに私を問い詰める。
なんで消えたのか……それは、私が瀬七さんのことが好きだったからだ。
本当に好きだったから、騙されてつらくなった。
でも今更そんなことを言っても、どうにもならない。
栄斗をひとりで産んだ私と、恵さんと結婚する瀬七さん。あのときとはまた、状況が全然違うのだ。
「……わ、我に返ったんです。失恋の傷を男の人で埋めようとしてる自分が、らしくなくて。恥ずかしくなったというか……」
心にもない理由を並べてズキズキと胸が痛む。
出会ったばかりでも、彼に抱かれて私は後悔していなかった。
ちゃんとまた、恋していたから。
もちろん……瀬七さんに本命の恵さんがいると知って、黒い感情が生まれたのは事実だ。
でも、あのとき抱かれていなかったら栄斗にも出会えていない。
すると黙って私の話を聞いていた瀬七さんは、壁から手を離し距離をとった。
「たしかにあのときの君は、男に諦めていたようだったな。だから……ほんの一瞬でも、俺を信じてくれて嬉しかった」


