瀬七さんと廊下で遭遇し三時間が経過した、十二時……。
まだオペは終わっていないため、他の器械だしと業務をバトンタッチし、リーダーに休憩を申告して手術室をあとにした。
「はぁ、お腹空いた」
一時間後には再び手術室に戻らなくてはならないので、このフロアにある休憩室でお弁当を食べようと思う。
更衣室で術着からナース服に着替え、お弁当袋を持って廊下を歩き出す。
他の手術も、今日は長丁場のようだ。あたりは静まり返っており、朝手術室に入ったナースたちは見当たらない。
緊張が張り詰めた手術室から離れ、ようやく肩の力が抜けてくる。
通い慣れた休憩室のドアノブを引き、ぱたんと扉を閉めたそのとき。
「!」
顔を上げた私は、近くのテーブルで食事をとっていた医師を見て、絶句した。
ペットボトルのコーヒーを飲んでいた彼も驚いた表情で、飲み口から唇を離す。
「お疲れさま。ひかり」
なんで、よりによって瀬七さんがここにいるの。
私を自然に呼び捨てにした彼に、さーっと血の気が引く。
これは、かなりまずい状況なのでは。
瀬七さんは無言でその場から立ち上がると、こちらに向かって歩いてくる。
に、逃げなくちゃ。なんとかして……。自然を装って。
「お、お疲れ様です西堂先生。あ……私、ちょっと忘れ物をしてきちゃいました……!」
ゆっくりと後退し、手探りでドアノブを見つけ出したそのとき。
「なんで逃げるんだ?」
彼の艶やかな声が耳元に届いてすぐ、私の顔の横に、彼の手がとんっ……と叩きつけられた。


