人は不思議なものでどんなに深い心の傷でも、体にできた傷と同じで時間とともに癒えてくる。

 と、誰かが言っていた。私も例外なくそうだった。

 母と楽しく生活を送り仕事に精を出していたら、元カレへの想いは跡形もなく消えた。

 瀬七さんを強く想って苦しみに喘ぐ日もあれば、すっかり忘れる日もあったりして、段々平和な日常が戻っていく。

 これでいい、と言い聞かせながら数カ月が過ぎたころ。

 体に異変を感じた私は、受診した産婦人科で妊娠しているとはっきり診断を受けた。

 出産予定日を逆算して、瀬七さんとの子だと確信する。

 正直戸惑ったし、この先の不安が先にきて、目の前が真っ暗になった。

 けれどこのとき、私は気づいてしまったのだ。

 癒えていたはずの傷が、ただのかさぶたでしかなかったことに。

 蓋をしていた瀬七さんへの想いが、子供を通して鮮明に流れ出す。

 好きな人との子が私のもとにきてくれたのは、やっぱりどう転んでも嬉しかった。

 それに、命を殺めるのは私にはできない。

 瀬七さんの連絡先は分からない。

 職場は知っているが、私が接触しない限り海外にいる彼とは、今後も会うことはない。

 不安はあったけれど、最終的に私は自分の気持ちに素直になって、子供――栄斗を産んだのだった。