瀬七さんは短く言葉を切ってアイスを口に含む。そして何事もなかったように、ぱっと私から腕を離した。
「び、びっくりさせないでください」
「すまない。君があまりに美味そうに食うから」
さらりと間接キスされてしまい、落ち着いていた心臓が激しく動き出す。
視線を横に投げると、瀬七さんは横目で私の反応を見ながら、いじわるく笑っていた。
本当にすぐにからかってくるんだ、この人は。油断も隙もあったもんじゃない。
彼からの眼差しから逃れるようにして、輝きを放つサンセットに意識を集中させた。
なんだか、あっという間に一日が終わったな……。
瀬七さんはいじわるだけれど、今日一日はどこを切り取っても楽しい時間だった。
残された時間はわずか。明後日には日本に戻ると思うと無性に寂しい。
「……せ、瀬七さんは、明日は忙しいですか?」
まだ速くなった動悸は収まっていなかったけれど、平静を装って尋ねてみた。
明日も彼といたら楽しそうだ。はっきりとは言わないが、いっしょに観光を回ってほしい。
「大丈夫だ。最終日、俺に預けるか?」
瀬七さんはなんてことないように聞いてくれ、小さくうなずく。
「お願いします。でも、今日よりは控えめにお願いしたいけど……」
「わかったよ、ひかり。明日は君の行きたいところを案内しよう」
顔を上げると、瀬七さんが優しく笑っていてドキンッと心臓が跳ねた。
「そ、そうしてください」
夕陽が差して、私のこの熱くなった顔を隠してほしいと願う。
この胸の高鳴りはなんだろう。というより、気づかないほうがいい気がする。


