セグウェイを返却した私たちは、昼食を食べるためにビーチサイドにあるシーフード料理店に入る。
お店の名物である巨大ロブスターにサラダ、ノンアルコールジュースをふたつ注文し、久しぶりに瀬七さんと顔を合わせた。
バンジージャンプを終えてから、放心状態でまともに会話をしていなかったのだ。
「落ち着いたか?」
「はい、だいぶ」
瀬七さんは私の返事を聞くと、ふっと表情を緩める。
からかうというよりも安堵するような優しい笑みで、少しだけ鼓動が跳ねた。
この人。いじわるなんだか、優しいんだか分からない。
でも、今まで出会ってきた男性とはまったく違う価値観を持っていて、ダイナミックな人だというのはたしかだ。
「バンジー……飛ぶまではよさなんて一ミリも分からなかったんですけど、終わった今はやってよかったなと」
「なんだって? あんなに嫌がって半べそかいていたのに?」
「本当にいじわる」
むっと頬を膨らますと、彼は目を細め声を上げて笑う。
このからかわれる感じが板についてきたようで、思わず息を吐きながらビーチに視線を投げた。
「…………」
ああ、やっぱり綺麗だ。海。
うまくは言えないけれど、新しい世界が始まったような気がする。
この一か月間の重たかった気持ちを、全部吹き飛ばすくらいの衝撃を受けた。
もしかして瀬七さんは、すべて分かって連れてきてくれたのかな……なんて、考えた。
強引なのは全然頂けないけれど、ただの度胸試しだったのかもしれないけれど。
でも結果オーライ。そういうことにしておこう。
「すっきりしました。生まれ変わったみたいで……連れてきてくれてありがとうございます」
頭を下げて感謝を伝えると、前から伸びてきた手がぽんっと頭に乗った。
「よかったな。じゃ、新しい君に乾杯しよう」


