シロソビーチの青いグラデーションを、四十七メートル上から見下ろす。
みんなとても平和な世界を生きている。かたや私は……。
そうこうしていたら係員に準備万端にされ、あとは踏み台に立つことしか残されていなかった。
「君の度胸を見せてもらう。いってこい」
「っ」
ハーネスをとり付けた彼が、私の耳元でささやく。
ちらりと横目で見ると、喉奥でくくっと楽しそうに笑っているではないか。
「瀬七さん、許さない!」
「あー、恨んでくれていいぞ」
ガイドブックにあるような定番の旅行を想像していたのに、こんな場所で度胸試しをするなんて夢にも思わない。
思わず叫んだ私に、彼は踏み台を指さし「俺押そうか?」という。
ここまで言われては悔しすぎるので、飛ぶけれど。飛ぶけれども……。
踏み台に震える足で立ち、瀬七さんではなく係員さんに背中を押してもらうように頼む。
すぐ近くで聞こえてくる英語のカウントを聞きながら、私は今は亡き父や日本にいる母のことを思い出していた。
もう……瀬七さんのばかぁ……!!
次の瞬間、私の視界は真っ白になった。
数十分後。
電動立ち乗り二輪車のセグウェイを借り、瀬七さんの後について海辺をのんびりと走行する。
頬を撫でる暖かい潮風が気持ちがいいし、海も綺麗で心が平穏。
一生分の勇気をかき集めた後なので、よけいにしみじみと感じるのかもしれない。
なんだか頭が冴えていて、体がすっきりしている。


