「現実は君のような人ばかりではないんだ。金が払われないのに面倒なことに巻き込まれたくない、まともに診察できない状態で病人が亡くなった場合、責任を負いたくないと、見て見ぬふりをする医療従事者も少なくないからな」
彼に言われて、口を噤む。
なんとなく感じていた心のもやもやが晴れた気がする。
何度も医師を呼ぶアナウンスがあったのにも関わらず、最後まで私たち以外は病人に手を貸そうとはしていなかった。
動画を撮影していたり、写真を撮っていた野次馬はたくさんいたけれど……。
必死に助けている中で、乗客の他人事のような姿を見て胸が痛くなったのは事実だ。
「俺たち以外にも医師や看護師は乗っていた可能性は高い。だから君は自分の保身よりも命を最優先に考えられる人だ。君も俺も素晴らしいってことだ」
彼の最後の言葉を聞いて、思わず吹き出す。
自己肯定感がだだ下がりだったからか、こんな些細な誉め言葉でとても明るい気持ちになれてしまうのだ。
「あはは……」
私の笑い声に、なぜか瀬七さんは勝ち誇ったようにくすりと笑う。
「ようやく笑った。旅行なのに、君はあまり楽しそうじゃないから心配していたよ」
「え……?」
瀬七さんは頂きますと手を合わせて、スープにありついている。
一緒に過ごした時間が少ないのに鋭いところを突かれ、顔が引きつった。
「傷心旅行かなんかだろ?」


