その後入国審査を終え、預けていた荷物を受け取り、瀬七さんに連れられるまま空港内になる中華料理の店に入った。
深みのある黒柿色と白で統一され店内は、中国の伝統工芸品が飾られ、とても高級感がある。
彼の情報によるとシンガポールは中華料理が美味しいらしく、この店は特に現地で知名度があるチェーン店のようだ。
瀬七さんは私にメニュー表を差し出し食べたいものを尋ねると、流暢な英語でウエイトレスに注文してくれた。
「……ところで、ひかりさんはひとりで観光にきたのか?」
食前に運ばれたジャスミン茶に口を慣らしつつ、小さくうなずく。
ここにくるまでの間に、互いに下の名前は伝えあっていた。
セナ、なんて外国人みたいな名前だなと思いながら、華やかな彼の姿にぴったりだと思う。
「はい、ひとりで。あの、瀬七さんは何度かシンガポールに?」
空港内もとても慣れたように歩いていたし、話していてなんとなく初めての訪問でないと分かる。
「今はこっちに住んでいるんだ。本拠地はアメリカなんだがシンガポールの病院で研修を受けている」
彼の話によると、シンガポールは世界でも医療技術が高く、瀬七さんの専科で有名な名医がシンガポールの病院にいるようで、彼の下で学んでいるという。
今回一時帰国したのは、もともと日本の大学病院でお世話になった恩師に会うためだったらしい。


