「んん……?」
緊迫したCAさんの声に目を覚ましたのは、羽田空港から離陸して四時間後、シンガポール・チャンギ空港に着陸予定の二時間前だ。
食事をし映画を観た後、寝てしまっていた。先程までの落ち着いた空気とは一転し、あたりは騒がしい。
するとCAさんが、シートベルト着用を促すため話しかけた男性の意識がない、と無線で伝えているのが聞こえてきた。
野次馬も集まり、体調不良の男性の様子はこの席から確認できない。
直後、ポーンという音とともに機内アナウンスがかかった。
『機内に急病人が発生しております。お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか』
大変。助けないと。
医師ではないが医療従事者として何か力になれないかと、すぐに席から立ちあがって、男性のもとに駆け寄る。
青ざめた顔で汗をびっしょりかいた男性に話しかけるが、まったく反応がない。
呼吸もほとんどしていないように感じサッと青ざめるが、すぐにCAさんに声をかける、
「すみません! ブランケット、用意してくれますか!」
男性を床に横たえ、持ってきてもらったブンケットを丸めて枕をつくる。
空気が吸いやすいように顔を上に向かせた……そのとき。
「失礼。私は医者です。急病人を診せてください」
はっきりと男性の声が耳に届き顔を上げる。
やってきたのは、斜め後ろの座席に座っていた瀬七さんだった。
「君……」
患者の横にいた私見て、彼は驚いたようにわずかに目を開く。
「あなた、お医者様だったんですね。この男性、意識も呼吸もありません。かなり危険な状況かと」


