「いい天気だなぁ」
小さな窓から滑走路の向こうの青い空を眺める。
日差しは強く眩しいほどなのに、私の心には暗い影が落ち、雨が降る直前の重たい雲のようだった。
二十五歳の私は、本気で恋した相手がいた。
五歳年上の会社員の彼と四年間付き合い、エンゲージリングまでもらっていた。
このシンガポール旅行は婚前旅行をかねて半年も前から計画していたのだけれど、
一か月前に、彼の浮気相手がSNSを通じて私に密告してくれたおかげで、すべての計画が白紙に戻った。
彼は問い詰めたら開き直り、浮気は一度や二度ではないと白状した。
浮気性の彼との幸せな未来がまったく想像できず、自分から別れを告げた。
初めこそは怒りに震え、別れて清々した気持ちでいたけれど、少し冷静になって深い悲しみが襲ってきた。
愛し合っていた私たちはもういないんだ。
いっしょにすごした時間に、幾度となく裏切られていたと思うと、彼を心から信じていた自分が滑稽に思えてならない。
今までもらった嬉しい言葉や、大切にしていた贈り物たちがすべてまがい物のように思えて、彼の存在自体が不快に感じた。
もう男の人を信じたくない。恋はしなくていい。
彼への断ち切れない想いや、悲しみや怒りの感情を超え、私の心は黒く染まった。
始めはキャンセルする予定だった旅行へ行くことに決めたのも、
私はひとりでも生きていける、と自分に言い聞かせるためだ。
でも……悲しいことにこうしてぼんやりすると、思い出してしまう。
「お客様、お客様」


