結婚式から立食会まで済ませ、俺たちは今日のために予約した最上階の部屋に足を踏み入れる。
今日はひかりの母が栄斗と預かってくれているので、久しぶりにふたりきりの時間を過ごせるのだ。
クラシカルな部屋を横切り、大きな窓ガラスの前にふたりで並んで立つ。
眼下に広がるシンガポールの夜景が、煌びやかなシャンデリアよりも光輝いていた。
「こうしてまた……シンガポールに、瀬七さんと来れて嬉しいです。それに、夜景をふたりで見れて」
ひかりは目を細め窓の外を眺めながら、かみしめるようにつぶやく。
「……俺もそう思うよ。だが俺は、ひかりがいなくなったあの日から、シンガポールの夜景が嫌いだった」
誰にも告げてこなかった本心が、自然と口を衝いて出た。
ひかりとのあの夜が、忘れられなくて。
この夜景を見るたびに、鮮明に彼女の存在を思い出してしまっていた。
早くアメリカに戻ったのも、それが理由だ。
俺の言葉に、彼女の肩がわずかに跳ね、ゆっくりと華奢な体がこちらに向いた。
「瀬七さん……」
「でも、今は違う」
彼女の小さな唇に指を添える。
指先に柔らかな感触を感じ、彼女は今、俺の目の前にいることを噛みしめる。
「今日という日を迎えて……これからは、最高の景色として上書きされたよ」
ひかりは揺れる瞳で俺を見つめた後、柔らかく微笑んでくれた。
「わたしもです。瀬七さん。もう……ひとりじゃありませんね、私たち」
「ああ」
彼女の頬を引き寄せ、唇を奪う。
どこまでも溶け合ってしまいそうなほど、ひかりとのキスは心地がいい。


