【短編集】異世界恋愛 (by降矢)

「あれはもしやエレノア様では……?」

「何と! 聖女様が! こいつはありがたい!」

「いや。もう職を辞されているはず。お体が悪く、祈りを行うことはもう……」

「何? では、クリストフ様は――」

「誤解です」

 エレノアは言い切った。その口元に微笑みを(たた)えたまま。

「クリストフ様は自ら汚れ役を買って出てくださったのです。名誉を欲したわたくしの、この浅ましい心を汲んで――」

「なりません! それでは貴方様のお命がッ!!!」

「勇者様に面目が立たん! 頼むから止めてくれ!!!!」

(ユーリ……)

 ユーリの笑った顔、怒った顔、いぢけた顔、泣き顔を一つ二つと思い返していく。

(……ごめんなさい。わたくしは最期のまで最期まで身勝手で不出来な妻でした)

 エレノアは胸の内で謝り広場の中央へ。周囲の戦士達、その一人一人に対して可能な限り目を向けた。

「貴方方はこのデンスターの……いえ、世界の希望です。どうかその輝きを絶やすことなく健やかにあってください」

 エレノアは両手を組んで祈りを捧げた。虹色の霧かかったオーロラのような光が周囲一帯を包み込む。