【短編集】異世界恋愛 (by降矢)

「クリストフ様……?」

「乗れ。連れて行ってやる」

「恐れながら軍服ではないようですが……?」

「問題ない。この服装でも十二分に戦える」

 エレノアは目を伏せて頷いた。何度も、何度も。

(励んでくれたのね、ユーリ。心から感謝申し上げます)

「早くしろ」

「はっ、はい! ただいま」

 エレノアは最後にもう一度だけ振り返り、エルに目を向けた。侍女・メルルの胸の中で不思議そうな目をしてこちらを見ている。エレノアは溢れ出そうになった涙を呑んで笑顔を浮かべた。

「エル。お父様と仲良くね」

 エルはなおも不思議そうな顔をしている。十中八九意図はまるで伝わっていないのだろう。エレノアは苦笑一つに教会を後にした。

「あ゛……! がっ……」

「お気を確かに」

「いでぇ……っ、いでぇよ……」

「何とお労しい……」

 現地では瘴気に侵された人々が苦しみに喘いでいた。その数ざっと100人はくだらない。回復術士達も奮闘してくれているが、まさに焼け石に水だ。

 もしかするとクリストフはこの光景を目の当たりにしたことで、行動を起こすに至ったのかもしれない。

「クリストフ様。ありがとうございました」

「礼には及ばない。……精々役目を果たせ」

「はい」

 エレノアはブルーグレーのドレスの裾を摘まんでカーテシーをした。クリストフは何か言いかけて止めた。そのまま何も言わずに森に向かって駆けていく。