【短編集】異世界恋愛 (by降矢)

 侍女は不快感と憤りからか表情を歪めたが、エレノアはそれには続かなかった。

「お優しい方」

「……何?」

 クリストフは自ら汚れ役を買って出たのだ。現地の戦士達を思って。そしてエレノア自身のことを思って。

 エレノアは聖女の務めに誇りを持っていた。彼はそんな彼女を誰よりも近くで見ていたのだ。

 故に知っている。救える命を救えなかった。その事実を知った時、彼女がどれほど無力感に苛まれるのかを。

「メルル。エルをわたくしに」

 侍女のメルルは悲痛な面持ちでエルを手渡した。何も知らない、知り得ないエルは無邪気に手を伸ばして笑う。

「エル。わたくしは貴方を愛しています。……信じてもらえないかもしれないけれど本当よ。勝手な母親でごめんなさいね」

 エレノアはエルの額に口付けるとメルルにそっと預けた。彼女は緑色の大きな瞳から大粒の涙を流して主であるエルを抱き締める。

「……君を選ばずにおいて良かった」

 クリストフは目を合わせない。顎に力を込めて顔を俯かせている。

「ふふふっ、エルに同情してくださっているのですね?」

「戯言を」

「これはとんだ失礼を」

 クリストフのアイスブルーの瞳が光輝く。不遜とも取れるその自信に満ち満ちた輝きにエレノアの胸が躍った。少しずつ、次第に激しく。