【短編集】異世界恋愛 (by降矢)

「素敵な名前ですね」

 エレノアの真意を汲んでくれたようだ。ユーリの栗色の瞳に力が籠る。この子を、ルーベンを守ろうと誓いを立ててくれているのかもしれない。

「愛称はエルになるかしらね」

「エルか」

 ユーリの手がエルに伸びる。ミルキーブロンドの髪に触れて間もなく彼は激しく泣き出した。

「あらあら」

「……俺なんかしましたっけ?」

「さあ? 心当たりはないのだけれど……もしかすると」

「もしかすると?」

「貴方のことが大好きなのではなくって?」

「…………………………は?」

「愛情の裏返しとでもいうのかしらね? 好きな子ほどイジメたいというか」

「だとしたら大分ひねくれ者ですね」

「そうね。ふふふっ、誰に似たのかしら?」

 どんな親子になっていくのか。想像するだに胸が弾んだ。しかしそれも束の間、心が重たく沈む。

(見ていたかったな。誰よりも近くで。時には笑って、時には泣いて)

「エラ……?」

 エレノアは小さく首を左右に振って笑顔で誤魔化した。残る寿命は半年ほど。少しでも長くこの平穏な日々が続いてほしい。そう切に願った。

 しかしながら、運命は非情だ。エルが生まれて一カ月も経たない頃、魔王襲来の報告が王都中を駆け巡った。