【短編集】異世界恋愛 (by降矢)

 シンボルである猫じゃらしを思わせるようなポプラの木が村の至るところに。農地と牧場が織りなすのどかな風景が広がっている。

 復興前の村の風景とかなり似ているがやはり別物。似て非なるものだった。元住民であるユーリは一層その違いを強く感じてしまうらしく、移り住む気にはなれないのだという。

 エレノアはユーリと共に慰霊碑に花を手向けた。その帰り道、人の姿もまばらな夕暮れの田舎道を二人並んで歩いていく。

(たぶん……このあたりね)

 エレノアは小さく咳払いをして(おもむろ)に切り出した。

「ユーリ。一つ聞いてもいいかしら?」

「何ですか? 改まって」

「どうしてわたくしを選んでくれたの?」

 ユーリの栗色の瞳が大きく見開く。その直後、忙しなく周囲を見渡した。合点がいったようだ。エレノアは悪戯が成功した子供のように無邪気に微笑む。

 そう。ここは10年前、ユーリがエレノアにプロポーズしてくれた場所であるのだ。

「策士ですね。流石はミシェル様の妹君です」

「誉め言葉として受け取っておくわ」

 エレノアが再度微笑むとユーリは大きく咳払いをした。言葉を整理しているのだろう。唇をへの字にして、赤く染まった空を見上げる。