【短編集】異世界恋愛 (by降矢)

 彼は鼻を鳴らして嗤った。牽制のつもりなのだろう。そんな彼の隣には変わらず聖女・シャロンの姿がある。

「ご無沙汰しております。クリストフ様」

「君は変わらないな。10年前、城でわかれたあの日から何一つ変わっていない。羨ましい限りだよ」

 自信に満ち満ちていたアイスブルーの瞳は(すさ)み、健康的だったその頬は薄っすらとこけてしまっている。

(……お(いたわ)しい)

 何と言葉をかけたらいいのだろう。浮かんだ言葉のすべてが無礼であったり、彼を傷付けるものになってしまうような気がしてならない。

「クリストフ様は、エラの救出にもご助力くださったんですよ」

 切り出したのはユーリだった。嫌味ではない。その言葉尻からは確かな感謝と信頼が滲んでいる。

「後陣だ。体のいい脇役だよ」

「背後の守備が徹底されているからこそ、俺達は戦いに集中することが出来たんです。クリストフ様のお力添えがなければエラを助け出すことはおろか、本拠地に辿り着くことすら叶わなかったでしょう」

「っは、人気取りに必死だな」

「本心ですよ」

 ユーリは一歩も譲らない。信じてほしい。そんなふうに自分を卑下しないでほしい。そんな切なる願いが伝わってくるようだ。

 そんなユーリの願いが伝わってかクリストフの表情は一層歪んでいく。嫉妬、憎悪の感情は変わらずあるがそれだけではない。

 悲しみ、悔しさといった感情も伝わってきた。

 例えるなら迷子の子供。クリストフ自身も帰りたいと願っている。だが、帰り方が分からず途方に暮れている。そんな印象を受けた。

「まさに破れ鍋に綴じ蓋といったところか」

 クリストフはやれやれと首を左右に振りエレノアに目を向けた。