〇学校・教室(朝)

ガラララと教室の扉を開けるいのり。

いのり「おはよ~」

ものすごい勢いで、いのりの顔の横すれすれを何かが通る。

☆ ☆ ☆

教室のドアのふちに郁人の腕が置かれ、いわゆる壁ドンのような体勢になる。
美しい郁人(いくと)の顔がドアップになる。

郁人(いくと)「おはよう、いのり」
いのり「!?!?!?」

顔を真っ赤にするいのり。しかしハッと気づく。

☆ ☆ ☆

〇学校・廊下(朝)

郁人の笑い方に見覚えがある。
いのりは郁人の腕を掴んで、ずんずんと廊下を進む。

〇学校・非常階段(朝)

いのり「ちょっと!」

仁王立ちになるいのり。

☆ ☆ ☆

いのり「変身を解きなさい!」
郁人は怪しく笑った後、光に包まれる。
郁人だと思っていたのは変身した柩だった。
柩は得意げな顔で話し始める。

柩「斎川(さいかわ)郁人(いくと)とかいう男が風邪で休みと聞きましてね。それに彼のせいでクラスの女子とトラブルが起きそうだとも」
柩「だからさっさとトラブルを起こし、私の魔力で一掃――」
いのり「そういうの、本当にやめて」

いのりは冷たい声で遮る。

☆ ☆ ☆

いのり「学校生活めちゃくちゃにするのは許さないから!」

ブチギレるいのり。
いのりは怒ったまま教室に戻る。
クラスメイトたちはざわざわとしているが、自分の席に戻ったいのりの耳には入って来ない。

いのり(斎川くんにも迷惑が掛かることするなんて、最低――!)

☆ ☆ ☆

〇学校・非常階段(昼休み)

いのり「お見舞いに付き合いなさい」

結局昼まで「斎川郁人」として大人しく擬態していた柩。
柩は階段で変身を解く。
そんな彼に、プリントを掲げるいのり。

いのり「クラスメイトにも斎川くんにも迷惑を掛けたんだから、ちゃんと謝りに行きましょう」
柩「そんなささいなことを気にする必要ありません。それこそトラブルになれば私の高校に転校――」

☆ ☆ ☆

いのり「いい加減にしてください」
いのり「行きますよ」

いのりは再び怒りながら、柩の手を取って歩き出す。
二人は学校を抜け出して外に出る。
柩はいのりが自分の手を握ってくれたことに少し驚いた顔をしながらも、この少女は優しいなぁと目を細めるのだった。

☆ ☆ ☆

〇ドラッグストア・室内(昼)

風邪薬やスポーツドリンクを大量に買う二人。

〇孤児院の近く・外(昼)

大きな袋をぶらさげた柩とプリントを持ったいのり。

いのりがハッと気づく。

いのり「……なんか、嫌な気配がします」
柩「えぇ。きっと『敵襲』ですね」
柩「コントロールの成果、見せつけてやりましょう」
いのり「……癪ですが、分かりました。さっさと片付けて斎川くんのところに行きましょう」

二人は荷物を道路わきに置く。
周りに人がいないことを確認し、互いに呪文を唱える。
最後の声だけが揃う。

「「変身!」」

☆ ☆ ☆

二人は魔法少女と魔王チックな装いになって、敵と対峙する。
敵は「厄」。
黒い煙のようなものが、ぐんと大きくなって、いのりの3倍くらいの高さになる。

黒い煙は、自分の体から鋭い刃のようなものを作る。
二人は修行のおかげもあって、ステッキや剣で弾き返す。
しかし弾き返せなかったものが、いのりを襲いかける。

☆ ☆ ☆

柩が頬に傷を作りながらその刃を防いでくれる。

柩「彼女に傷を作るなど、五千年早いな」

柩は不敵な笑みを浮かべて、いのりを襲おうとしていた刃を叩き斬る。
その勢いのまま、柩は厄に向かって剣を振りかぶる。

いのりは祝の力で、厄を倒せるように祈る。

すると柩の持っていた剣が真っ白に光り輝く。
ニヤリと笑った柩は、剣を振り下ろして、厄を一刀両断する。

☆ ☆ ☆

いのり「……助かりました。怪我をさせてすみません」
柩「いいえ。無事倒せて良かったです。それに共闘できてよかったです」

柩は自分の傷を拭う。すると魔力なのか、傷が消えていった。

変身を解いた二人は、ゲームセンターの時のようにハイタッチする。
いのりは少し癪に思いながらも、それに応じ、再び二人で孤児院に向かった。

〇孤児院・正面玄関(昼)

いのり「ごめんくださーい」
いのり「郁人くんのプリントを届けに――」

郁人「あれ? 明寺(みょうじ)さん?」

☆ ☆ ☆

いのりは買ってきた薬などを渡す。

いのり「水掛かっちゃったから、風邪引いちゃったんでしょう? 私のせいでもあるから、受け取ってほしくて」
郁人「わぁ、ありがとう。そっちの人は?」

二人でいのりの後ろを見ると、子供にわいわいと囲まれ、困惑している柩。
いのり「さ、さっき道で知り合った人……荷物持ち」
郁人「そ、そう……」

郁人は苦笑を浮かべたあと、いのりを真っすぐに見据えた。

☆ ☆ ☆

郁人「とにかく助かったよ。俺最年長だし、院長先生も他の子見るので精いっぱいだから、自分の買い出しとかなかなか行けなくてさ」
いのり「そっか、大変だね」

いのりは苦笑を浮かべる。

郁人「でも、俺はさ」

郁人に引っ付いてきた子供の頭をなでた。

郁人「こいつらが大好きなんだ。こいつらが笑顔になってくれればそれでいい。だから全然大変じゃないよ」

いのり(大人だなぁ)

柩と違って、と思いながらいのりはもう一度後ろを振り返る。

☆ ☆ ☆

柩がこっそり魔力を使って「変身!」と言って、魔力で謎の黒いお面を作って付けている。
子供たちからヒーローみたいだと大人気。
すると笑顔の院長がやってきた。

院長先生「せっかくだしご飯でも食べて行きませんか?」

いのり「さ、さすがにそこまでは……」
柩「せっかくだ。いただこう」
子供1「さすがヒーロー!」
子供2「いや、こいつ魔王っぽくね?」

柩はすっかり子供に懐かれている。
その様子を見ていのりと郁人は笑顔を浮かべた。

☆ ☆ ☆

いのり、柩、郁人、子供たち、院長先生でご飯を食べる。
いのりと郁人は笑い合い、柩は複雑な顔をしつつも、
小さい子供に食べ物を食べさせているいのりをみて、子供が出来たらこんな感じなのだろうかと想像してにやけている。

☆ ☆ ☆

〇孤児院の近く・外(夜)

お腹いっぱいになりながら、暗くなった道を歩く二人。
気まずい雰囲気はなくなった。

いのり「楽しかったですね」
柩「えぇ。ですが……」

柩は急に真剣な表情に戻る。

柩「マスコットはきちんと持っていてください」
柩「今日みたいなことが、増える気がします。気は抜かないように」
いのり「……分かりました。気を付けます」

マスコットが意味深に映って終わる。(黒い靄のようなものが掛かっている)