ランドリア王国では、貴族の子供達は13歳になると学園に通う事になっていた。学園は王都の西の端にあり、ほとんどは王都の自宅であるタウンハウスから通うが、一部の生徒の為に寮も併設されている。昔は貴族の教育は各家庭で行ったらしいが、数代前の王が学園を創設したことで平等に(あくまでも貴族の間では)勉強の機会を与えられ、茶会などをしなくても友達を作れるようになった。婚約者候補も、以前はどこが誇張されているのかわからない絵姿で想像するしかなかったが、本人をそのまま見る事ができる。学園に通うのは18歳までで、その間に学業と社交性を身につけ、ランドリア王国に忠誠を誓う。
 男子は国防を担う人材を育成する、という側面も学園にはあったが、リシェルの父ケント公爵はリシェルに危険な事をさせなかった。兄達は子供の頃から剣の稽古の為に時々騎士団の鍛錬場に通っていたが、女装をしていたリシェルにはそれは求められない。なので、リシェルは学園で初めて体験する剣術の授業に戦々恐々としていた。
 公爵家四男という立場と細身の体型(身長は家系なのかそこそこ伸びた)、そして誰よりも美しいリシェルは、入園当初令嬢たちから熱い視線を送られた。ただ、父は婿にはやらないと言っていたし、兄達は過保護だし(次男と三男が学園にいたので令嬢たちから徹底的にガードされていた)、リシェル本人も愛想を振りまくこともなかったので(基本的に無口)、1学年が終わる頃には「氷姫」というありがたくない二つ名を頂くことになった。
 「公爵家の4番目は可愛い女の子」という噂を知っていて、期待を持って学園にやってきた男子生徒は入学早々落胆させられたが、リシェルの穏やかな性格と聡明さは彼等を惹きつけ、密かに親衛隊を作っていた。
 そんなものが存在しているとは知らないリシェルの成績は学年で常にトップで(但し剣術だけは中の下)、友人はクラスの成績上位の数人の男子生徒だけだったが、それでもリシェルの学園生活は楽しく、充実していた。