リシェルは、旧ゲイツ領での仕事を終えて馬車に揺られていた。テイラー伯爵領にも度々顔を出して、ルーナと薔薇農園を散策した。薔薇が咲いていなくても、農園は二人で歩くのにちょうどいい。作業の邪魔にならない程度に、薔薇農園を恋人たちに開放するのもいいかもしれない。
 馬車に揺られながら、ルーナとの薔薇農園での事を思い出して顔が緩みきっていたリシェルは、突然の悪寒に襲われた。

「……………。」
 また兄が、良からぬ事を画策しているのだろう、とリシェルは考えた。新しいドレスなんか用意されていたら、どうやって断ろうか。
 結局、王都の公爵邸までの道のりの半分は、ジェシー対策をあれこれ考えることに時間を費やしてしまった。

 リシェルが家族から開放される日は、まだまだ先のようである。