リシェルがテイラー伯爵領の隣領の管理者になる?リシェルにとって、ルーナの近くで働けるそれは、とても嬉しい仕事になりそうだった。
「殿下、我が弟は働き出してまだ2年目ですが、よろしいのですか?」
ジェシーがリシェルにかかる重責を心配してカイトに訴えている。
「リシェルは優秀だよ。旧ゲイツ領の主な産業は織物だが王国領となることで、王宮御用達にすることも可能だ。発展させていけるだろう。」
王太子の太鼓判にジェシーは何も言えない。カイトは更に
「そしていつか、私が国王になる頃にはその土地をリシェルに譲ることもあり得るだろう。」
と笑顔で続けた。それにはリシェルもテイラー親子も驚いている。いち早く言葉を発したのはテイラー伯爵で
「リシェル様なら大丈夫でしょう。殿下のお側での堂々とした仕事ぶりは、安心して見ていられます。あの、小さかった公爵家のリシェル様がここまで成長されたのだと思うと、私も感慨深いです。」
と言ってくれた。ルーナが
「私もリシェル様が隣りにいらしてくださったら安心です。」
と少し小声でいうと、カイトは
「何も隣りでなくとも……」
と語尾を濁すのを何やらジェシーに制されていた。ルーナはそれを聞いて赤くなっているが、リシェルは全くわからないようで、首を傾げている。
 それを見ていたセイラがため息をついて首を左右に振っていた。
 リシェルは王太子に
「ありがとうございます。ご期待に添えるように頑張ります。」
と返事をしてから、ルーナに向かって
「仕事になるなら、いつでもこちらに来られるね。」
と先程の二人の会話を思い出して言うと、ルーナもにっこり笑って頷いた。
 それを見たジェシーは
「とうとうリシェルが我等の手を離れるのか……。」
と肩を落としている。そしてカイトに
「いい加減に弟を溺愛から解放しなさいよ。」
と言われるのであった。