また少し歩くと、木はあるが開けた場所に出た。ベンチのようなものもあり、歩き疲れていたリシェルはそこに座る事にした。
「どうしよう。」
出るのはため息ばかり。お腹もすいてきた。
 よく見ると、周りの木々には赤い実のようなものがたくさんついている。近づいて手を伸ばしひとつとってみる。果実としては見たことがないものだが食べられるだろうか。
 好奇心と空腹に負けて、口に入れた。
「酸っぱい。」
リシェルの眉間にシワが寄る。

その時。

「だあれ?」
リシェルより少し小さい女の子が木々の間から現れた。生成りのワンピースには襟と袖口とスカートの裾にチェックの柄がついている。持っているカゴの中にはリシェルが食べた赤い実がたくさん入っていた。
「僕はリシェル。」
答えながら、リシェルの心の中は安心感が広がっていく。ひとりぼっちじゃない事がこんなに安心するなんて今まで知らなかった。
「これは何?」
近づいてカゴの中の赤い実を指差すと、女の子はコテンと首を傾げて答えてくれた。
「これは薔薇の実よ。」
何でそんなこと知らないの?とでも言いたげな表情だ。
「薔薇?薔薇ってあのお花の?」
「そう。お花が咲き終わったら実がなるの。」
「食べるの?」
先程の酸っぱさを思い出してつい確認してしまう。
「ジャムにしたりお茶にしたりするわ。」
「なるほど。」
そのまま食べるのではないのか。

それよりも。
切実な問題は。

「ここは君のおうち?」
「そうよ。」
「あの、もし家に帰るなら、僕も一緒に行ってもいいかな?」
なるべく怪しく思われないように、迷子だと悟られないようにお願いしてみる。
「ルナのお友達になってくれるならいいわ。」
ルナはふわりと微笑んだ。リシェルは緊張が抜けた安心感から、こくこくと何度も頷いて微笑み返す。