ゲイツ侯爵はルーナの婚約者としてジョルジュをテイラー家に送り込み、農園に関する情報収集をしていた。ジョルジュは何のためにやっているのかわからないなりに、テイラー家で見聞きした事を侯爵に話していた。
 買収したメイドにテイラー夫人の印璽を盗ませ、巧妙に偽造したものと入れ替える。そうして領地の境界線変更の契約書を作成し、盗んだ印を捺し、サインは婚約宣誓書から写し取っていた。だが、夫人本人には偽の契約書だとわかってしまう。ゲイツ侯爵は罪を重ね、テイラー伯爵夫人を馬車の事故死に見せかけて殺害した。こちらもゲイツ侯爵に買収された当時の御者が罪を告白していた。
 ローズクォーツの印璽は夫人の名前とジョルジュの頭文字が同じだったことから、ジョルジュに「本当に大切な女性ができたら渡しなさい。」と真実を知らせずに与えていた。ジョルジュはあの夜に、その教えを実行しただけなのだが、結果としてゲイツ侯爵家を破滅に追い込むことになる。
 更にあのローズクォーツの印璽は、王族にしか持てないもので、ルーナの母の先祖である降嫁した王女が元々の持ち主だった。それを偽造した(しかも、ローズクォーツに見せかけたガラスと金メッキの印面で)となると、王家を冒涜したとみなされる。
 犯行の動機は、ゲイツ侯爵が度重なる投資の失敗で多額の借金を抱えた事と、愛する妻が薔薇農園で生産される商品に興味を示したからだった。テイラー領はたまたま隣りにあり、薔薇産業が好調だったことで被害を受けることになった。
 犯した罪の代償は大きく、ゲイツ侯爵自身は遠い地の刑務所に送られて、一生出られない。家族、親族は貴族籍を剥奪されて平民として生きることになった。ジョルジュや王太子妃候補だった姉も例外ではない。
 リシェルはジョルジュを騙したようで少し心苦しかったが、ルーナの辛い数年間を思うと、仕方がない事だと割り切れた。あの場にいたアントンも「殿下の考えた作戦だったんだろう?ああなるのは不可抗力だ、気にするな。」と言ってくれた。