お茶について一通り語ると、カイトはルーナに薔薇農園の近況を聞きたがった。ルーナは
「私も先日こちらに来て知ったことなのですが……。」
と前置きして話しはじめる。

 薔薇農園はテイラー伯爵家の人間だけではなく、通いで働きにきていた領民が大勢いた。農園管理だけでなく、薔薇を使った商品を作る工場もあったからだ。ゲイツ侯爵領に取り込まれてからゲイツ家にそのまま雇われたスタッフも居たが、待遇が良かったのは数年だけで、最近はボランティア同然で働いているスタッフが数人いるだけだという事だった。
「初期の頃から農園に関わっていた人たちで薔薇に愛着があったのでしょう。でも、その人たちのおかげで、薔薇はなんとか枯れずに保たれました。辞めていった人たちも徐々に戻ってきてくれています。母を慕ってくれていた人も多く、私も母のようになりたいと思いました。今年の薔薇の花はそろそろ終わりですが、美しく咲いております。殿下の訪問に間に合って良かったです。」
ルーナは柔らかく微笑みながらそう言った。
「それは良かった。明日が楽しみだよ。」
とカイトも微笑んでいる。
 リシェルもルーナの話を聞いてほっとしていた。ルーナの笑顔が戻ったのも嬉しい。あの夜会の夜に頑張った甲斐があったというものだ。リシェルは心密かに喜んでいた。