ゲイツ家に用意された控室は会場のすぐ側にあり、中には護衛や侍女がいた。柔らかい灯りがついた部屋の中央の長椅子にリサを座らせ、侍女に飲み物を用意させる。
「リサ嬢、お酒は飲めますか?」
ジョルジュが確認すると、リサは首を横に振る。残念そうな顔でジョルジュは果実水を所望した。

 ジョルジュはなんとか気を引こうとリサに話しかけるが、あまり会話は続かない。なんとか、19歳だという事とワイルダー伯爵が祖父である事を聞き出した。王太子との関係も聞きたいのだが、リサは
「子供のころからの知り合いです。」
と答えるだけで、情報が得られない。姉が王太子妃に選ばれる可能性があるのかどうかも探りたいのに、ジョルジュ自身がリサの事を知りたくてジリジリ焦ってしまう。
 それまで対面で長椅子に座っていたが、ジョルジュは隣りに座ろうと移動する。リサはびくりと身体を跳ねさせたが、拒否することもなくジョルジュの隣りに座っていた。
 姉が王太子妃になる為にはリサを候補から排除する必要がある。父侯爵の願望でもあるそれは早ければ早いほどいい。焦るジョルジュは、上着の内側のポケットから小さな布袋を取り出した。

「リサ嬢、私と婚約して欲しい。」
リサを見つめていると何も考えられなくなるジョルジュは、思わず本音を伝えてしまった。もう少し遠回しに言うつもりだったのに。あまりの性急さにリサもかなり驚いて、目を瞬かせている。それでもジョルジュは止まらなかった。リサの手を取ると、ベルベットの布袋を握らせさらに両手で包み込む。
「これを渡すことで本気だということを感じてくれるかい?」
リサは驚いた表情で布袋に目を落とすと、ジョルジュに問う。
「あ、開けてみても?」
ジョルジュが頷いて手を離すとリサは袋の中からそれを慎重に取り出した。
「これは……。」
「ローズクォーツの印璽だ。この色は君によく似合うと思う。父から貰い受けたものだが、いつか愛する女性が現れたら渡そうと思っていた逸品だ。リサ嬢…。」
そう言ってジョルジュはリサの顎に手を掛けた。ジョルジュの顔がリサに近づいた時
「そこまでだ。」
と声がした。