その日、リシェルが帰宅すると、ケント公爵家は騒然としていた。出迎えた執事に理由を聞くと、北方にあるケント家の領地で地震が起きたらしい。早馬で知らせが届いたが、発生からは1日以上経過している。領民や領民の居住地は無事だが、道路が寸断されたり土砂崩れが起きたりしているらしい。
「これから旦那様とアンジェロ様、マーティン様が現地に向かわれます。北部騎士団が助力してくださるそうでございます。奥様とリシェル様はこちらで留守を守っていて欲しいとの事です。」
「兄様も?」
「ええ。人手が必要なのだそうで、アンジェロ様も。それで、リシェル様に明後日のボードン家の夜会に、婚約者のサシャ様をエスコートして参加して欲しいと申されておりました。」
「夜会………。」
公爵家の留守を任されるのはいいが、夜会は最も苦手な部類だ。(一番苦手なのは剣術だが)リシェルは絶句してしまった。
 その表情を見て、執事のハリーは苦笑しながら告げた。
「いえ、社交はなさらなくていいそうですよ。ボードン侯爵家はサシャ様の所縁のあるお家ですから、とりあえずエスコートさえしてくだされば、という事らしいですので。」
「それはサシャ様から?」
「そうです。アンジェロ様の代わりに公爵家のどなたかにエスコートをお願いしたいと。」
 ケント家にはもう一人男子がいるが、ジェシーは仕事で来られない。リシェルはため息をついて
「わかりました。」
と返事をした。