ゲイツ親子が退室すると、カイトがリシェルを手招きした。
「リシェル、財務からゲイツ家の資料を持って来られるか?できれば10年分ぐらい。」
王太子は近年羽振りのよいゲイツ侯爵家に何か疑問を持っているらしい。
「かしこまりました。」
一礼して、リシェルは執務室を出る。一緒にジェシーもついてきた。こうしてリシェルが王宮府内を移動する時は、必ず近衛が一人ついてくれる事になっていた。護衛の点からも移動時間が短縮されるのもありがたかった。

 資料室からゲイツ家のファイルを取り出して、再び王太子執務室に戻る。カイトは執務机の前に、難しい顔をして座っていた。
「戻りました。」
 リシェルがファイルを渡すと、カイトは資料をパラパラとめくり
「やはりな。」
と何かに確信を持っているようだ。このままだとリシェルもこの件に関わる事になってしまうが大丈夫だろうか。ジェシーと交代で室内に居た騎士は部屋を出ている。
「あの……。」
リシェルが控え目に声をかけると、カイトはリシェルとジェシーを見て
「君たち兄弟のことは信頼しているよ。というか君たちにしか頼めないんだ。……ほらコレを見て。」
と言いながら、ファイルのある部分をリシェルとジェシーに向けてきた。

 ゲイツ領で5年前から急に収入が増えている。その理由が不明瞭だった。
「侯爵は令嬢を強力に王太子妃に推している。他の候補と比べると家格の点では最も優位だ。」
いくつかある公爵家に殿下の年齢に見合う令嬢がいないからなのだが(なので殿下が『リシェルが女性だったら……』とボヤくのも無理はなかった)、他の候補に家格以上の美点があるかというとそれもまた微妙なところだ。
「だが、彼女を婚約者にするには、この疑問を解決しないといけないだろう?怪しいことで利益を得ているなら候補から外さねばならない。」
カイトは真剣な面持ちでジェシーとリシェルに説明し、端正な顔を曇らせた。
「わかりました。そういうことでしたら直接の利害関係のない我々が適任でしょう。ゲイツ侯爵家の内情を調査致します。お任せください。」
ジェシーは騎士の礼をとり、リシェルは隣りで頭を下げた。