王太子の執務室は王太子の人柄を表すように実務的な内装だった。王太子カイトはリシェルを見て
「ジェシーとあまり似ていないね。」
と言う。今の時間は兄は担当ではないらしく他の少し年上の騎士が護衛に立っていた。
「よく言われます。」
リシェルが持ってきた書類を渡しながら答えると王太子はにっこり微笑んで
「仕事はどう?」
と聞いてきた。単純な仕事だけに何と答えようかリシェルが考えていると
「君の仕事が正確で早いことは耳にしているよ。計算に飽きたら、ここにおいで。いくらでも仕事はあるから。」
と勧誘される。リシェルが突然のことに目を丸くしていると
「地方の財務表の計算をしていて、何か気づいたことがあったら教えて欲しいんだ。些細なことでもいいから報告して欲しい。」
と言われ、勧誘は冗談だったのか、と思いつつ
「何か気になることでもおありですか?」
と聞いてみた。
「どことは言えないんだけど、ちょっと気になる動きをしているところがあってね。急いではいないけど、他言無用で頼むよ。君の上司達にも内緒ね。」
「わかりました。」
キラキラの笑顔で言われてしまったら断れない。(王太子の依頼を断れるはずもないが)

 こんな新人のリシェルに仕事を頼むなんてよっぽど人手が足りてないんだな、とこっそり思い、王太子の極秘?任務を受けてしまったリシェルは、またまた障害物の多い道のりを通って財務省へと戻っていった。