4月になり、リシェルは王宮府で働き始めた。
 制服であるフード付きの黒のケープは腰までの長さでグレーの縁取りがついている。白いシャツにグレーのワイドパンツもリシェルに似合っていて、結んだ金髪も含めてとても可憐に見えた。(男なのに。背もそこそこ高いのに。)
 そのことに一種の危機感を覚えた家族が、ジェシーに相談したところ、ジェシーはリシェルの為に伊達メガネを用意してきた。銀縁の細身の眼鏡はリシェルを知的に見せて、近寄り難さを演出した。

 財務省での新人のお仕事は、ひたすら計算である。いろんな領地や王宮府の部署から上がってきた財務表などの数字が正しいかどうかをチェックするのである。ここの新人はリシェルだけなので、かなりの書類が回ってくる。上司がほぼ外出している閑散とした部屋で、リシェルは黙々と仕事をしていた。
 時々、別の省や騎士団に書類を持って行ったりもする。王宮府の廊下を歩くリシェルはいろんな視線を感じたが、兄達のアドバイスにより無視することにしていた。目の前でペンを落とされたりわざと転んで気を引こうとする人たちなどは、見て見ぬふりをしないと時間内に届けものが終わらないのだ。
 今日も、目の前で清掃中のメイドがバケツをひっくり返していた。やれやれ、とため息を吐きながら、リシェルは書類を持って王太子執務室を目指した。