2人でベンチに座り、パーティーの衣装の相談をする。婚約者でもないので、リシェルからドレスを送る必要はないが、パートナーの衣装の色やデザインを、揃いとはいかないまでも、合わせるのはマナーのひとつだ。
「リシェル様の瞳の色は緑ですから、わたくしのドレスはそちらに合わせますわ。わたくしの髪色との相性も悪くないですし。」
セイラはアントンと違って髪色はチョコレート色だ。目力は強いが、眉も女性らしく整えられていて美人だ。お相手がいないのが不思議なところだが、残念ながら本人が近衛騎士をご所望なので、婚約の打診がきても悉く断っているらしい。兄の卒業パーティーに参加したかったのも、騎士団に入団が決まっている卒業生とお近づきになりたかったからで、そういうハッキリした性格は、リシェルは嫌いではなかった。
「セイラ嬢の好みの卒業生が見つかるといいね。」
リシェルは微笑ましくセイラを見る。
「ご協力感謝いたします。ただ、近衛になれるかどうかを見極めるのは難しそうですわね。」
セイラが眉間に縦じわを作るのを見て、そういえば、とリシェルは思い出す。
「僕の兄が来期から近衛に移動になるんだけど……。」
一転、セイラの目がきらりと光った。
「まあ!そうでしたのね!兄はそんなこと教えてくれませんでしたわ!」
後でアントンに聞くと『ケント公爵家に迷惑がかかると思って』と言っていた。どんな迷惑を想像していたのだろうか。三番目の兄ジェシーの腕の太さを思い出しつつ、リシェルは兄の休日を確認しておこう、とセイラへのお礼を考えた。