アントンはニオル伯爵家の次男で、リシェルの学年では常に上から5番目までの成績を維持していた。剣術も体術も得意で、時々リシェルに教えてくれる。リシェルが勉強を教えたり、アントンとは一緒にいることが多かった。

「なんだあれ?だよね。」
近づいてきたアントンにリシェルが返す。
「婚約者にあんな態度はおかしいだろ。」
「知ってるの?」
「ゲイツ侯爵家の長男とテイラー伯爵家の令嬢だろ。」
アントンはリシェルの隣りに座りながらこたえた。
 テイラー伯爵家といえば、やはりリシェルの知っている女の子だ。婚約者がいたことにも驚くが、雰囲気がまるで違うことが不思議だった。
「詳しいね。」
リシェルは動揺を悟られないように話す。
「ジョルジュ・ゲイツは僕たちの1学年下だけど、結構有名だから。まあ、リシェルが知らないのは仕方ないな。」
「優秀なのか?」
「成績は知らないけど、女生徒には人気があるらしいよ。体格もいいし、整った優しげな顔だし。」
「ふーん。」
「ま、リシェルほど美しくはないよ。」
「それあんまり嬉しくない。」
「ははは!」
アントンは本気で、リシェルより美しい人はいない、と思っているが、本人はあまり自分の顔に興味がない。
「学園に入る前からの婚約みたいだけど、昨年ぐらいから女生徒達が騒ぐようになって、今年彼女が入園してからは更に周りに女生徒が群がるようになったらしいよ。」
「婚約者がいるのに?」
「そうなんだよね。不思議なことに。」
アントンはその理由までは知らないらしい。
 リシェルは小さい頃の彼女の笑顔を思い出して、切ない気持ちになっていた。