オディールが死んだ日に


結が用意していってくれた朝食はスクランブルエッグにウィンナーの乗った皿に、トースト、玉ねぎのコンソメスープだった。そのすぐ傍に俺のお気に入りのコーヒーカップの中に淹れたてのコーヒーが置いてある。俺の好みを知らないのか、角砂糖とミルクピッチャーもご丁寧に用意されている。俺はコーヒーはブラック派だから、翆がコーヒーを淹れてくれる際、砂糖とミルクはテーブルに並ぶことはなかったが。


朝食は基本取らない派だったが、きっと朝早くから結が準備してくれてたのだろう、俺は椅子に腰かけ結が用意してくれた朝食をありがたくいただくことした。


しかし一人で摂る朝食は味気無さを感じた。けれど結は料理が上手いのか、味の方はかなりのものだった。特にオニオンスープは空っぽだけれどそれほど食べ物を欲していない胃にはちょうどいい。どこか懐かしさを感じるほっとする味だった。隠し味に入っている生姜がアクセントだ。


懐かしい―――?殆ど手料理を作ってくれなかった母親の味すら覚えてない俺がこの味を懐かしいと感じるのはおかしな話だ。しかし結婚してから翆がたまに作ってくれる料理にこのオニオンスープがあった。その味と全く同じだ。


結と、母親の翆は一緒に暮らしたことがない筈。しかしこのオニオンスープが翆の母で結の祖母直伝のレシピだったら?


結―――


そう言えば、結の通う高校までここから電車を使って40分はかかるだろう。車で行けば少しは時間短縮できる筈。それに何より電車では痴漢に遭う可能性も考えられる。ストーカー問題も未だ片付いていなさそうだし。


「結」


俺は殆ど何も考えず、食いかけの朝食をそのままに玄関口まで走った。玄関のシューズクローゼットの上に俺と翆の車のキーが貝殻型をした皿の上に乗っている。俺の車のキーを握ったときに気づいた。


翆の車のキーがそのまま、そこに残っていることを。