「翆―――」
翆の名前を呼んで、彼女の体を抱きしめると俺はそのまま起き上がって、翆の体をベッドに倒した。翆の華奢な肩を、夢じゃない、と、現実なんだ、と思いたくて僅かに力を込めた。翆が俺を無表情に見上げている。
「翆―――」もう一度名を呼んで顔を近づけた。翆がゆっくりと目を閉じ長い睫毛が白い頬に影を作っていた。
雨の音が一層強くなったときだった。雷が遠くで鳴っている。その音が俺を現実に引き戻した。
違う―――
翆じゃない
はっとなって目を開くと、ベッドに仰向けになって俺を見上げていたのは
「結―――?」
何で結が俺の寝室にいるのかどうかすら考える余裕はなかった。最初に思ったことは「何てことをしてしまったんだ!」と思わず顔を覆いたくなった。だんだんと脳内が覚醒してきて、寝ぼけていたとはいえ、俺は17歳のガキに何てことを。後悔と罪悪感で頭の中が真っ黒に染め上げられていく。しかしそんな黒さとは反対に結の真っ白な腕が伸びてきた。
「おじさん、いいよ」
は―――?
最初は意味が分からず、俺はバカみたいに目をまばたいた。
「今日だけはあたしをお母さんの代わりと思って、いいよ」
何―――……
「何言ってんだ!ふざけんな!!大人をからかうんじゃねぇ!」
俺をからかっているのか、それともまた良からなくことを考えているのか。
俺はそう怒鳴っていた。酒の力も相まってか、それともそれ以上の何かの感情に突き動かされてか、俺は結の華奢な両肩を掴み無理やり起こした。
「痛っ!」結は顔を歪めたが、俺は構うことなく腕を引っ張り上げベッドから引きずり出すと
「勝手に寝室に入ってくるな!今度こんな真似しやがったらすぐに追い出してやる!出ていけ!」
「ちょっ!おじさんっ!」結は尚も喚いていたが、「出ていけ!」俺はそう叫び、結の喚き声にも聞く耳持たずで俺はバタンと大きな音を立て、寝室の扉を乱暴に閉めた。
何なんだ、あいつは―――
俺は頭を抱えてまたもずるずると床に尻をついた。



