「ねぇ、お母さんは何で死んじゃったんだろう…」唐突の結の質問にグラスを回していた俺の手は止まった。
「事故、自殺?それとも―――事件…」
”事件”と言うワードを出すとき結の声に震えが混じっていた。
「さあな、警察はその三つの方面で調べてるようだが、詳しくは解剖をしないと分からないらしい」
解剖、と聞いたとき嫌悪と憎悪がいっしょくたになって俺を満たした。とても平常ではいられなかったが、そうしないと真相にはたどり着けないのも事実だ。翆のきれいな体がこれ以上切り刻まれるのは許せなかったが、憎むべきは翆を死にやった真相だ。
遺体が戻ってくるのは解剖後の、恐らく三日ほどかかると言うとのこと。
「お母さんは死にたい程何かに悩んでたの?それとも殺したい程誰かに恨まれてた人がいたの?おじさん一緒に暮らしてたら分かったんじゃない?」結が俺の膝に両手を置き軽く揺すった。結は答えを求めている。しかしその答えが俺には分からないし、俺だって知りたい。
「分からない、何かに悩んでいる様子はなかった気がしたが、誰かに恨まれる人間でもなかった気がする」
「もぉ……あてになんないなぁ。奥さんだったんでしょう?そんなことも分からないの?」
そんなこと―――?言われなくても俺が一番後悔している。もっと翆の本質を知っていれば、もっと翆と長く一緒にいれば。
「ねぇお母さんが解剖から戻ってきたら、あたし会ってもいい?」結が神妙な顔で俺を見てきて『ダメだ』とは言えなかった。結が翆の娘なら結は生涯母親の顔を知らずに生きていくことになる、それは流石に不憫だ。しかし翆と同じ顔をしている結に、葬式時に何て説明すればいいのやら。
結局「考えておく」としか今は結論が出なかった。
「お母さんはさー、すっごくおじさんに愛されてたんだね」
愛―――……?
「そんなことを語るのはまだ早すぎる」
俺は結の頭を軽くこずいた。
「あー!またあたしをガキ扱いして」結は頬を膨らませて拗ねる。
「17はガキだろ。17年間彼氏いなかったくせに愛が何なのか分かるんか。漫画やドラマの見過ぎだ」
「そんなこともない」結はぷいと顔を逸らせて「疲れちゃった、今日はもう寝る」と何を怒っているのか声を低めて突如立ち上がった。
「疲れたって、お前なぁ。お前から話聞きたいって言ったんだぞ?あ、それとカップラーメン片付けていけ」
「えー、面倒~おじさんやっといてー」
「はぁ?何で俺が」
「ガキはおねむの時間なんです。じゃね、おじさんまた明日~」結は厭味ったらしく言い大げさにあくびをしながら螺旋階段を上っていく。
前言撤回。結と翆は顔が似てるだけで赤の他人だ。何なんだ、あいつは。



