オディールが死んだ日に


白鳥のオデットと黒鳥のオディールの二役を一人のダンサーが踊るのが『白鳥の湖』の大きな特徴だそうで、ダンサーには性格の違う二役を踊り分けるテクニックと表現力と体力が求められるそうだ。
黒鳥の登場シーンは三幕のグランパドドゥ(二人の踊り)とフィナーレのみで、他の作品が物語の最後にグランパドドゥを踊るのに対し、全幕の最も盛り上がる場面に踊られる物語の展開上からも不可欠な踊りらしい。


オディールの踊りはニ幕のオデットの振り付けが、誘惑の手管として全く違ったニュアンスで再現され、王子に自分はオデットであると信じ込ませていく。例えばアラベスクのポーズをとってみても、オデットとオディールの違いは端的に現れたのが分かった。


オデットのアラベスクは頭を前に伸ばした手に沿わせるように傾けて視線を伏せ、悲哀の表情を作るが、
一方オディールは顎を高く上げる、または顎を引いているときは上目遣いの鋭い目線を送ることで強い印象を与えている。

黒鳥の踊りといえば、コーダ(グラン・パ・ド・ドゥの最後に男女が一緒に踊る締めくくりの部分。ジャンプやグラン・フェッテなど、華やかなテクニックが次々に披露され、舞台を最高潮に盛り上げる)の後半で始まる三十二回のフェッテ(回転しながら、鞭を打つように足を曲げ伸ばしする動きのこと)有名みたいだ。目の回る三十二回の回転に息を呑んだ。


女性ダンサーのテクニックの最先端を見せるものであり、『白鳥の湖』のこの場面では、オディールの勝ち誇った笑いやめくるめく幻想を表したものでもある。


最後は拍手喝采で、オディールとオデット役を見事にこなした翆もどこか高揚したようで満足そうであった。