オディールが死んだ日に



「お昼のニュースでお母さんが死んじゃったのを知って、もうあたしが頼れるのはおじさんしかいないって思って」


結は大きな目に涙の粒を浮かべて俺をじっと見つめてきた。やめてくれ、そんな捨てられた猫のような顔は。


「だからって身内でもない俺がお前に何をしろ、と?」冷たい言い方だが、厄介ごとはごめんだ。ただでさえ妻の死に動揺して未だ受け入れられないっていうのに。


「あたし、ここで暮らしたい」


はぁ!?言ってる意味が分からず俺は目を丸めた。話が飛躍していてついていけない。それとも最近の女子高生とはこういうものなのか。


「あのな、お前がもし翆の娘でも俺にとっては赤の他人だ。そもそもばあちゃんの家があるだろ、そこへ帰れ」


「ヤダ!だって最近見張られてる気がするんだもん……ストーカーって言うの…?ここならセキュリティも万全だし」


ストーカー?それが本当の話だったら猶更厄介な話だ。面倒は避けたい。


「だったら警察行け」


至極まっとうな意見を述べたつもりだが


「警察に行ったけど、相手にしてもらえなかった。『君の気のせいじゃないかー』とか、挙句『君も付け狙われる理由を作ったんじゃないか』とか」


「ひでぇな」


「でしょ!だから警察もあてになんない。警察はことが起こったら動く組織だから」


17の小娘にしては随分現実的なことを言う。


確かに17にしては少し大人びた色気を漂わせている、喋らなければ完璧な美少女だ。どこかの変な男に付け狙われていてもおかしくない。


「おじさん、あたし一人でいるのが怖いの」結は俺の腕につかまってきて涙のたまった目をまばたきさせた。長い睫毛で縁取られたアーモンド型の形の良い目からぽろりと涙のしずくが落ちる。


ああ、やっちまった……


だが同情する余裕はない。


「お前にとって殆ど得体の知れないおっさんをお前は信用するって言うのか?」どうにか断りたい俺はあらゆる言葉でこの娘を返そうとするも


「得体が知れなくはないよ、だってお母さんがおじさんのこと『いい人』だって」


ああ、埒が開かない。


「いい人だって男だ。突然お前を襲うことだってできるんだぞ」俺は結の体をソファの背に押し付け、彼女を覗き込むように腕をついた。最後の手段を出してやると、結は『待ってました』とばかりに唇をまたも妖艶に吊り上げた。


サッと俺の前に結のスマホが掲げられ、そこにはさっき二人で撮った…訂正、撮られた写真が写っている。


「いいの?断ったらこれSNSにばら撒くよ?」


くっそ!俺は結のスマホを奪おうとしたが、それをうまくかわした結は


「さっきのデータ、あたしの友達に送っておいたの。因みにあたしのスマホのGPSでその友達があたしの居場所を分かってくれてる。おじさんは何もできないよ」


ふふっとまるで悪魔のような囁き声で小さく笑い、がくりと項垂れた。


完敗だ……


この俺が17歳の小娘にしてやられるとは。