オディールが死んだ日に



「その前にあたしのこと教える」


教える?


何をする気だ、と一瞬構えたが少女が取り出したのは小さな手帳のようなもので


「あたしまだ17だし、免許証持ってないからこれしか証明するものないけど」とずいと差し出され、俺はそれを受け取った。


「学生証?」


よく見たらその学生証はここいらでも頭が良い学生が通う有名な公立学校のものだった。その学生証を開くと、少し真面目くさった顔を作った少女の顔写真が乗っていて、名前も”八神 結”と書かれていた。少女の髪形は長いまっすぐな黒髪をしていて、写真だけ見ると益々翆に似ている。学年は三年生。どうやら名前は嘘を着いていなかったらしい。

しかし、やはり女子高生だったとは…まさか俺が自分の半分程の歳の女を家に入れるとは。第三者に知られれば言い逃れのできない厄介な事柄だ。早く追い出すに越したことはない。


しかし八神……結が俺に自分のことを打ち明けてくれたからこちらも名乗るしかない。変に警戒されても困る。


「俺は柏原…」


「匠美さんでしょう?知ってるよ。35歳で既婚者。子供は無し。身長は175㎝で体重は推定65㎏、B型の獅子座」


おいおいおい……


「何で俺のことそこまで知ってる」


怖いよ。


「全部インターネットに載ってるよ」


くらりと眩暈を覚えた。今の時代は何でもネットに情報が載っているとはいえ、ここまで知られてたとは。


そのとき、結は俺の隣にさっと移動してきてスマホを掲げると、カシャリとシャッター音を鳴らして自撮り。


「何をしている」


「見て分かんない?おじさんがあたしに何かしようとしたら、Kick rookの若きイケメン社長、女子高生を買春ってSNSに載せてやるから」


はぁ!?


「そしたらおじさんの築き上げてきたものが全部崩れ去るよね。それどころか刑務所行きかも」結は淡いピンク色をした、見ようによってはきれいな唇をにやりと吊り上げた。それは少しだけ妖艶にも見えた。


しかし何て狡猾な……


心地よいと思ったあの言葉は前言撤回したい。


またも大きなため息が出た。


「安心しろ、お前みたいなガキを相手にする暇なんてないんでね、それよりさっきの封筒を寄越せ」俺が手を差し伸べると結は「ガキじゃないもん。あたしはもう17だから結婚もできるもんね」とブツブツ。


「その考え方がガキなんだよ」俺は封筒をひったくると


「おじさんの方がガキっぽいよ」と頬を膨らます。


「煩いクソガキ」


「くそじじい」


おじさん→おっさん→くそじじい


どんどん格下げされてるじゃないか。