オディールが死んだ日に


仕方なしに俺はその少女をリビングに通した。約二十畳程のリビング、ソファセットとテレビ、チェストとあとは観葉植物が点在するこざっぱりとした部屋だ。


「へぇ……流石、シャッチョサン、いいとこ住んでんね」少女はボストンバッグを両手で抱え物珍しそうにあたりをキョロキョロ。「わぁ!お部屋の中に螺旋階段がある」少女は二階部分まで吹き抜けになっている高い天井を眺めながら「ねぇ、これおじさんが買ったの?それともお母さんと共同で?」


お母さん―――


突如として出されたワードに若干戸惑った。それは娘が母親を呼ぶごくごく自然で当たり前のように思えたからだ。やはりこの少女が言う通り、こいつは翆の娘なのか。


いやいや、それだけで信じる程俺もバカじゃない。


「名義は俺だが」


「そっか、儲かってるんだね」


「俺の経済情報は良い、それより証拠と言うものを早く出せ」俺が掌を少女に向けると


「はいはい、大人はせっかちでイヤだねぇ」と言いながらも、床にボストンバッグを置き、その中から一枚の古びた封筒を取り出した。


「せっかちで悪かったな、早く寄越せ」俺はその封筒を奪うように手にすると、少女がそれを強引に取り戻した。


「ちょっと!いくら何でも順序があるでしょ!おじさん横暴過ぎるよ」


「お前に言われたかない」


「何でお母さんはこんなおじさんと…」


「何で翆はこんな可愛げない娘を」


女子高生に張り合ってる場合ではないが、ついつい言葉が出る。思えばこの家でこんなに誰かと会話をしたのは随分久しぶりな気がする。


最初はこの少女を警戒したものの、それはすこしばかり俺の中で心地よかった。