オディールが死んだ日に


発狂したかのような叫び声にぎょっとした。周りに人はいなかったものの、このマンションは共有廊下をはじめエントランスや駐車場あらゆるところに防犯カメラが存在し、24時間管理体制を取っている。いつ警備員が駆け付けてきてもおかしくない。俺は何も悪いことはしていないが100%の確立で誤解をされるだろう。


「な、何言い出すんだ…!」俺が思わず少女の手首をつかむと


「強姦魔ーーー!!このおっさんに犯される!!」と彼女はまたも叫んだ。


強姦魔!?しかもおじさんからおっさんに格下げかよ。勘弁してくれ!


それでなくても今日は一日疲れてるって言うのに。この叫び声を聞いて近隣の住人が顔を出さないうちに


「ちょっと!」


仕方なく俺は彼女の手首を握ったまま彼女を部屋に引きずり込むようにして入れた。


パタン、と扉がきっちりしまったところでふっと力が抜けた。その場でよろよろと腰を下ろし、すっかり板についているヤンキー座りをしながら両手で顔を覆う。


「何なんだよ、お前……」


「だから八神 結。黒瀬…」


「翆の娘だって?確かに顔はそっくりだが、翆はそんな性格じゃない。女の武器を使って他人を脅迫するようなヤツじゃない」


睨み上げると、少女は腕を組みながら俺を見下ろし髪をふわりとかきあげた。その顔には罪悪感の欠片もなかったが、仕草だけを見ると随分大人びて見える。そうなると翆に本当によく似ていた。


いや、他人の空似だ。この世には自分と同じ顔を持つ人間が三人は存在するって言うじゃないか。


「おじさん、まだ疑ってるの?証拠見せるからあげてよ」とさっきは気づかなかったが古びたボストンバッグを玄関口にドサリと置く。この様子からすると家出少女では……。事と場合に寄っては警察に突き出した方が良さそうだな。


まぁその前にその”証拠”と言うのが気になる。まさかDNA鑑定書でも持ってきたのか?


しかし、翆とは真逆のこの横柄な態度。例えDNA鑑定書を出されても信じられないな。