思考が追い付かない。
翆には結婚歴もなければ、子供もいなかった筈。と聞かされていただけで実際には違っただけかもしれないが。
新手の詐欺か?この世の中情報はすぐにSNSで出回る。たまたま翆に似た女が翆の子供を名乗り出て俺を強請りにでもきたのだろうか。それか整形か。今の美容整形の技術は優れていると聞く。
しかし、右目下の黒子―――
翆も同じ場所に黒子があった。この少女もまた同じ場所にある。そう言えば黒子は遺伝するとも聞いたこともある。
いやしかし、黒子なんてものの書き足せば何とでもなる。俺はその少女の頬に触れると右目下の黒子の辺りに親指を這わせた。
「ちょっと……!」少女は最初のうち顔を歪め警戒したものの
「黙ってろ」俺がピシャリと言うと、びくりと肩を揺らし大人しくされるがままになった。
俺が確認したかったのは、この黒子がホンモノであるかどうか。どうせ付け黒子か描いたものだろうと思ったが感触は黒子そのもので、多少擦っても滲む様子がない。
「何なの、おじさん」と少女が眉を吊り上げる。
おじさん?一瞬ムっとしたものの、彼女の年齢からすると俺は十分おじさんなのだ、と言うことを改めて認識した。
「ああ、悪かった。で?翆の娘……?が俺に何の用だ」
まだ娘と認めたわけではないが。
「ここではちょっと……長話になるだろうし入れてよ」と少女は玄関の奥を無遠慮に目配せ。
「は?何で見ず知らずのお前を俺の家にあげなきゃならない」
「だから、おじさんにも関係ある話だよ。あたしは黒瀬 翆の娘だもん」
「翆から娘がいるって話聞いたことないし、そもそも苗字が違うじゃないか」
「色々複雑なの、ね、入れてよ」少女は周りを気にするようにきょろきょろと周りを目配せし、
「だからってほいほい入れるわけねぇだろ」俺が追い返そうとするも、少女は「この手は使いたくなかったんだけどなー」とちょっと肩をすくめ
手?何の手だ?と思う間もなく
「キャー!!!!助けてぇ!!」
彼女は突如として叫びだした。



