ガタン、と大きな音を立てパイプ椅子から立ち上がると「ちょっと(せき)さん!」と言って若い刑事が年配の刑事に言い放ち、また関と呼ばれた年配の刑事に今にも殴り掛かりそうな俺の間に割って入ってきた。


「関が失礼なことを。お詫び申し上げます。それで話を戻しますが奥様の死因は溺死ではなく、川に落とされたか落ちたときに固い何かで後頭部を打ち付けた痕跡があり、それが致命傷になったかと」と若い刑事が話を変え、俺は顔から力が抜けてまたも椅子に逆戻り。こっちの刑事の方が幾分かましだな。


しかし、後頭部の傷が致命傷―――


「こんなことを聞くのは酷ですが、どこかの橋で身を投げた可能性も考えています。生前何かに悩まれていたご様子は?」と聞かれ


「さぁ……自分のことはあまり話さなかったから」と俺の答えも曖昧だった。翆が何かに悩んでいて自殺する程まで思いつめていたなんて、全然知らなかった……いや、あくまでそれは刑事たちの想像でまだ確定したわけではない。しかし刑事たちが望んでいた答えではなかったとすぐに分かった。


「あくまで可能性ですのでね、誰かに恨まれるような人だったと言う噂は?」とまたも関とか言われた年配の刑事に言われ俺はギロリとその刑事を睨んだ。


「じゃぁ誰かに殺されたって言うんですか!妻は人気者と言うわけではないが、誰かに恨みを買うほどの人格じゃない」


「それでも知らない所でかってる場合もある。例えば同じダンサーの役を取ったとか」


とうとう我慢ができず俺は机を叩いてまたも立ち上がった。「妻は昔主役を張っていた!だけど最近は若いダンサーたちに押されてむしろ主役を奪われたんだ!」


俺はそう怒鳴っていたが年配の刑事は動じた様子もなく


「ほお、それではあなたはそのことをご存知だったと」


「そうですが」


「先ほど奥さんは自分のことをあまり語らないと言っていましたよね」


何だこれはまるで誘導尋問じゃないか。


こみあげる怒りが拳を震わせる。


「それぐらいは話しますよ。今回のハムレットの件だって……」


いや、翆が本当にフランス、パリに行こうとしていたと言うのならその話も納得できるが、翆は本当は俺に嘘を着いていて、行先はどこか他の場所だったのか―――