「美夢」
涙が止まらないわたしを優しい声で先輩が呼んで遠慮がちに手が伸ばされた、その時。
「七星くん、そろそろ車出すわよ」
控室のドアをノックする音と同時に、美雲さんの声が聞こえた。
「あら、お邪魔だった?」
ドアが開いて中を見た美雲さんが、からかうように言ったけれど。
「ぜ、全然そんなことないです!失礼します!」
「あ、待って!せっかくだから音夢ちゃんも車で送ってあげるから支度したら駐車場までいらっしゃい」
慌てて控室を出ようとしたわたしに、美雲さんがそう声をかけてくれた。
ということは、先輩と途中まで一緒に帰れるんだ。
「わかりました」
急いで涙を拭って、私は自分の控室へ向かった。
着替えを終えた私は美雲さんの車で家まで送ってもらって。
皇月先輩にチョコレートを渡すこともできて、「ありがとう」と笑顔で受け取ってもらえて安心した。
美雲さんに冷やかされて恥ずかしかったけど、初めて先輩の気持ちを聞くことが出来て思い出に残るバレンタインになった。